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流通M&Aの深層 #2 コスモス薬品の「自力成長主義」

コスモス薬品(福岡県)は現在、ドラッグストア業界の中で売上高3位のポジションにある。業界トップのウエルシアホールディングス(東京都:以下、ウエルシアHD)、2位のツルハホールディングス(北海道:以下、ツルハHD)がM&A(合併・買収)を繰り返して、規模を拡大してきたのに対し、コスモス薬品はオーガニックな成長のみで現在の地位を築き上げている。コスモス薬品の成長の原動力は一体どこにあるのか――。

「安さ」だけじゃない!コスモス薬品の強さとは

 流通業界のトップは、「CS(顧客満足)を大事にしないとだめだ」ということよく口にする。リアル店舗を持っている小売業にとって、CSはまさに生命線である。しかし、CSをきちんと実践できている小売業は概して少ないのではないか、と筆者は思う。

 もちろん、低価格で販売することも重要だ。「安さ」もCSのひとつである。また、欠品がなく、品揃えが充実していることなど、CSを構成する要素は種々ある。だが、コスモス薬品が顧客から高い支持を得ている理由は、もっと別のところにあるという指摘は少なくない。

 筆者は先日、コスモス薬品のある店舗を訪ねてみた。店内では「何番レジに入ってください」といったアナウンスが頻繁に流れている。これは当然、お客をレジに並ばせないためだ。レジ待ちのお客の何人か並ぶとアナウンスが流れ、休止しているレジが開くというオペレーションが徹底されている。

「M&A無し」で業界3位の規模に成長!

 高いレベルで標準化された食品強化型ドラッグストアフォーマットを高速出店することで、コスモス薬品はあれよあれよという間に業界3位まで登り詰めた。注目したいのは、業界3位という規模を「M&A無し」で実現しているという点だ。

 現在の売上上位の大手ドラッグストアは、M&Aで業容を拡大してきたところが多い。来年にはマツモトキヨシホールディングス(千葉県)とココカラファイン(神奈川県)が経営統合し、業界トップに躍り出るとみられている。現在、業界トップのポジションにあるウエルシアHDや2位のツルハHDも、大型案件を含めM&Aで現在の地位を獲得したといっても過言ではない。

 今年もツルハHDが、JR九州ドラッグイレブンを取得。少し時間を遡れば、ウエルシアHDは17年に丸大サクラヰ薬局、18年に一本堂(現在は吸収合併)などを傘下に収めているし、ツルハHDは15年にレデイ薬局、17年に杏林堂グループホールディングス(現・杏林堂薬局)や18年にビー・アンド・ディーホールディングス(現・ビー・アンド・ディー)をM&Aしている。

「店舗年齢の若さ」が競争力に

 コスモス薬品のトップは決算会見の際などに、「M&Aには目もくれず、自力で出店してきた」とコメントしている。その理由の一つが、自ら新店を出店した方がM&Aによる店舗網獲得よりも店舗年齢を若く保てるためだ。

 M&Aで買収先を傘下に収めた企業と自力で出店した企業のあいだには、どうしても店舗年齢に差がでる。店舗年齢を若く保つことは、競争力につながる。老朽化した店舗で買物をするよりも、きれいな店舗で買い物をした方が顧客満足度は高いのは間違いないだろう。店舗年齢の若さは、コスモス薬品の高い競争力の源泉となっていると言っていい。

 また、食品販売もコスモス薬品の強さの1つだ。「コスモス薬品は食品の安売りで集客し、医薬品や化粧品といった高粗利益率の商品を販売している」という話をよく聞く。実際に、同社の食品売上高構成比は57.4%(20年5月期)と業界でも群を抜いて高い。しかしコスモス薬品の本当の強さは、食品販売の強さよりも、前述のような「顧客がストレスなく買物できる」という小売業の普遍の真理があるからではないだろうかと筆者は考える。

 コスモス薬品はドラッグストア業界の尺度と違う尺度を持って、業界3位にまで規模を拡大した。同社は現在もM&Aに否定的な考えを示しており、これから先も買収劇には参戦しないとみられる。M&Aで規模を拡大するか、自前で拡大するか。こればかりは経営トップの経営哲学の違いといえるが、コスモス薬品のやり方は小売業の一つの羅針盤になることは確かだ。