世界の市場規模は3年で約6兆円規模に
イオン(千葉県/吉田昭夫社長)は10月6日から、原料を植物性のものに置き換えた“植物置き換え”食品の新商品シリーズ「Vegetive(ベジティブ)」の本格展開をスタートした。
近年、健康志向の高まりなどにより、植物性原料が注目を集めている。食品スーパーでも、アーモンドやココナッツなどを主原料にしたさまざまな植物性ミルクが店頭に並ぶようになった。
植物性原料は地球環境の保護という点でも利点がある。家畜類の生産には、飼料として多くの穀物量や水量が必要となるほか、大量の温室効果ガスの排出がともなう。たとえば牛肉を1㎏生産するのに必要な水量は約2万700㎥で、大豆の場合の約8.3倍だ。
これらの観点から世界的には2008年頃から“植物置き換え”商品の市場が伸び始め、23年には5兆8000億円規模まで拡大するとも言われている。
主ターゲットは20~30代と50代
そうしたなかイオンは、近年、国内でも健康と環境保全の双方への消費者意識が高まっており“植物置き換え”食品が消費トレンドになっていると判断。イオングループのプライベートブランド(PB)「トップバリュ」の新シリーズとして「ベジティブ」を投入した。
今回発売したのは全9品目。肉の代わりに「大豆」を使用したハンバーグや、生乳ではなく「豆乳」と「ココナッツオイル」を原料としたシュレッドチーズ、牛乳を使わず「豆乳」で乳酸菌を発酵させたヨーグルトなどをラインアップした。
とくに、20~30代のなかでも健康や環境に対する意識の高い層、また生活習慣病予防対策に取り組む50代をメーンターゲットに設定している。
「トレーダー・ジョーズ」、「ホールフーズ」参考に商品を3つに分類
「ベジティブ」シリーズはイオングループの「イオン」「イオンスタイル」「イオンスーパーセンター」「マックスバリュ」の計約2000店で販売。品目数はこれから順次、拡大していくという。
商品開発は、「ホールフーズ・マーケット(Whole Foods Market)」や「トレーダー・ジョーズ(Trader Joe’s)」といった、米国の食品スーパーの先進事例を参考に進める。商品化の方向性を大きく3つに分類し、①「魚や肉」を、大豆をはじめとした「豆類」に、②「牛乳」を、アーモンドやココナッツ、大豆などの「物性ミルク」に、③「カリフラワーライス」のように、米や小麦などの穀物を、「ブロッコリー」「カリフラワー」に、それぞれ置き換えていくという。
しかし、国内では植物性原料の食品に対する、消費者の関心や知識はまだまだ高いとは言えない。同シリーズの浸透を図るには、商品の情報発信や売場での提案が重要となる。
そうしたなかイオンは、シュレッドチーズであればチーズ売場で、というように、既存のカテゴリー売場で着実に提案することで、購入につなげるという。
イオントップバリュ取締役マーケティング本部長の和田浩二氏は「大量購入されるような商品ではないため、大量陳列のようなかたちではなく、定番の売場でしっかり品揃えし、デジタルツールなども活用しながら商品の価値を伝える。そうすることで『今回は“植物置き換え”食品にしてみよう』と、少しずつ食生活に取り入れてもらえるようにしたい」と話す。
成功のカギは「おいしさ」の実現
もう1つ、イオンが同シリーズで支持獲得を図るべくこだわったのが「味」だ。「結局、美味しくなければ、いくら健康や環境に配慮された食品でも、トレンドは一時的なもので終わってしまうと考える」(和田氏)。
そこで筆者は実際に、「ひよこ豆と玄米からつくったスパゲッティタイプ」(240g・298円)と「豆乳からつくったクリームソース」(80g・128円)を使ったパスタを試食してみた。
感想としては、やはり従来のクリームソースパスタとは、味も食感も多少異なる。しかし、麺はもちもちした食感で、クリームソースは、生クリームを使用していないのに十分なコクがあり、おいしく食べることができた。
また通常のナショナルブランド商品と大きく変わらない低価格を実現しており、金銭的な負担を感じることなくふだんの食卓に取り入れられそうだと感じた。
植物性原料食品の市場開拓に乗り出したイオン。食品小売のリーディングカンパニーが動き出したことで、今後、国内市場が大きく広がる可能性もありそうだ。