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連載 スーパーマーケットの2020 #6 ヤオコー

埼玉県を地盤に、東京・神奈川・千葉・茨城・群馬・栃木と関東の広域で勢力を拡大中のヤオコー(川野澄人社長)。同社の業績は好調そのもので、2020年3月期で31期連続の増収・増益を果たし、コロナ禍にあっても足元業績は絶好調をキープしている。埼玉県発祥のローカルスーパーはなぜこれほどまでの成長を遂げることができたのか。

業績はまさに「絶好調」

 30年前、ヤオコーは売上高300億円に満たない埼玉県のローカルチェーンだった。そこから大きなM&A(合併・買収)もほとんどなく、着々と商勢圏を広げ、今や1都6県で事業展開するリージョナルチェーンへと成長している。2020年3月期(連結)の売上高は4604億円。営業利益は198億円と、200億円の大台を射程圏内に捉えている。

 コロナ禍の現在、食品スーパー各社の既存店売上高は軒並み伸張しているが、ヤオコーの伸び率は驚異的と言っていい。新型コロナウイルスの感染拡大が始まった、20年2月の既存店売上高は対前年同月比11.0%増。そこから現在に至るまで2ケタの伸び率をキープしており、8月も対前年同期比14.0%増で着地している。非常事態下で強さを見せつけた格好だ。

 20年3月期の決算資料によると、同社がKPIとする既存店1km商圏での来店率は57.9%と前期から1.9ポイント(pt)増加。月間来店回数は6.8回(同0.2pt増)となっており、個店の支持率が着実に上昇していることがみてとれる。

強さを支えるMD力

 この支持率の高さを形成する要因のひとつが、MD(マーチャンダイジング:商品政策)力だ。

 ヤオコーではかねて、経営のテーマの1つに「チェーンストアとしての個店経営」を掲げている。早くから店舗のパート従業員に権限を委譲し、「全員経営」を展開。チェーンストアでありながら地域特性や販売動向をみて、店単位でMDを考える体制づくりを進めてきた。

 同社のMDは業界内でも定評があり、同業他社による“隠密の視察”が跡を絶たないという。「ヤオコーのMDは参考になる」(食品スーパー関係者)という声も聞こえるのはもっともだろう。

 具体的にヤオコーのMDは何がすごいのか。とくに評価が高いのが総菜だ。

 ヤオコーの総菜売場を見渡すと、旬の食材をタイムリーに取り入れたメニューなど、きめ細かい品揃えもさることながら、肉総菜は「幸唐(さちから)」、魚総菜は「漁火(いさりび)」として銘打ち、専門店のような売場演出が目を引く。総菜の豊富さ、選びやすさ、買いやすさ、そして楽しさを売場で打ち出しているのである。こうした消費者心理をくすぐるMDがヤオコーの強さを支えている。

 高粗利益率をたたき出すデリカ事業部の売上高は517億円(20年3月期実績)に達しており、売上高構成比は13.5%にもなる。総菜部門はヤオコーの強さの源泉とも言っていい。

「MD力の進化が停滞している」

 しかしヤオコーは前期、このMD力に反省も残したという。昨年12月に開催された記者会見の席上で、川野社長が「MD力の進化が停滞している」と発言したのだ。業績は好調なだけに、会場は“なぜ”という雰囲気に包まれたことは想像に難くない。停滞の理由として、川野社長は「人手不足の中でオペレーションの改善に力を割いてきたことが大きい」と話す。

 この発言は総菜ではなく、生鮮食品について述べたことのようだが、川野社長はこうした反省の下、今期は「本来の強みである個店の良さをより強めていきたい」と気を引き締める。

 同社は決算説明資料で「商品・販売戦略」、「運営戦略」「育成戦略」「出店・成長戦略」と経営のテーマごとに掲げ、そこに〇、△、×と独自の評価を掲載し、包み隠さず公表している。こうした課題や反省も開示していることも高く評価されている。
 
 上場食品スーパー企業としては前人未到の31期連続の増収増益記録を打ち立てたヤオコーは次に何をめざすのか。多くの業界関係者が注目している。