メニュー

アフターコロナの巣ごもり消費で選ばれるテイクアウトには明確な戦略が必要だ

新型コロナウイルス拡大による「巣ごもり消費」ですっかり定着した感のあるテイクアウト。小売店からみると、競合も多く、新規参入者もますますテイクアウトに力を入れ始めているため、いかに自社の商品を差別化するための戦略がなければあっという間に需要に影響することは想像にかたくない。竹内謙礼氏の著書「巣ごもり消費マーケティング」からお客様目線に立ったテイクアウト戦略の具体的な進め方を紹介する。

飲食店とスーパーの強み弱みを理解しよう

 では、お客様に喜んでもらえるテイクアウトの戦略はどのように組み立てればいいのか。まず、スーパーと飲食店の「強み」と「弱み」を整理する必要がある。

 スーパーの強みは、食材や総菜の価格が安くて豊富なところである。買い物するうえでの立地もよく、郊外のスーパーであれば駐車場が広く、都心のコンビニは駅前に店を構えて、飲食店よりも気軽に立ち寄れる利点がある。

 一方、スーパーの弱みは、毎日食べていると味に飽きてしまうところである。外出を控えているため単調になる食事は、ストレスと直結する。メニューを考えることも億劫になり、料理を作ったり、後片づけをしたりすることも苦痛になる。総菜というすぐに食べられる便利な食事もあるが、出来たての料理が食べられないのは、やはり食事の楽しさの魅力に欠けてしまう。

 対する飲食店の強みは、中食には負けない美味しさである。楽しく過ごせる時間と空間も飲食店の魅力であり、それが付加価値となって利益を生み出している。

 最後に、飲食店のテイクアウトの弱みを考えてみよう。まず、コンビニやスーパーのテイクアウトに比べて、料金は割高になる。モノを買ってもらううえでは飲食店のほうが立地は悪く、テイクアウトをやっていることを周知させるのが難しい。また、お店がテイクアウトできる構造になっておらず、買いづらくて、注文がしづらいというデメリットもある。

 このように「スーパーの強み」「スーパーの弱み」「飲食店の強み」「飲食店のテイクアウトの弱み」の4つを洗い出すと、自ずと修正ポイントが見えてくる。

 まず、スーパーの強みには戦いを挑まないことである。立地や価格でスーパーに勝てるわけがないので、自力で解決できないことは戦略の中に落とし込まないほうがいい。

 一方、飲食店の強みは、自分たちの得意分野になるので、一気に伸ばしたほうがいい。たとえば、「美味しさ」の価値を高めるのなら、コンビニやスーパーのお総菜にはない「できたて」で勝負するのも一手である。また、冷めても美味しいお弁当にすることも、料理のプロであれば実現可能な課題といえる。

 ただし、味覚は人の好みや体調によってムラが激しいところがある。「美味しい」「まずい」は基準を作ることが難しく、修正するポイントを導き出しにくい。そのような場合は、個人差が出にくい視覚で「美味しい」と思わせる仕掛けが必要である。たとえば、メニュー名に「冷めても美味しい」「シェフこだわりの」などのイメージが湧きやすい言葉を挿入して、食べる前から美味しさをイメージさせたり、盛り付けで差をつけたりするのも、手っ取り早く付加価値を高める演出方法の1つといえる。

 飲食店ならではの楽しく過ごせる空間と時間の演出に関しても、オンラインの特性を生かせば、いろいろなアイデアが生まれてくる。

 たとえば、お弁当といっしょにレシピ動画のQRコードが入ったチラシをつけて、目の前で食べているお弁当の美味しさの秘訣を公開してみるのも一手である。美味しければお客様も真似をしたいと思うし、料理のレパートリーが増えるメリットがあれば再びその店でテイクアウトをしてくれるチャンスにもつながる。

「料理のノウハウが盗まれると、テイクアウトのお弁当が売れなくなるのでは」と思う人もいるかもしれない。しかし、お弁当が売れなくなるよりも、レシピ動画でお客様を感動させて、ファンになったもらうほうが、後々の売上アップにつながりやすい。

 また、料理のレシピはすべてを公開する必要はない。味の違いを出すためのちょっとした工夫や、料理の仕方を2~3分のかんたんな動画にまとめるだけでいい。その「ちょっとした違い」を知ることが、お客様にとってわかりやすい「感動」であり、料理を食べる側にとっても満足度の高いコンテンツになるのである。

オンライン飲み会で好まれるテイクアウト料理とは

 巣ごもり消費が長引くようであれば、オンライン飲み会の需要も高まる。ネットのリテラシーが低い人はまだまだ多く、お客さまのオンライン飲み会のスマホやパソコンのセッティングも込みにした宅配サービスにすれば、ユニークな販促手法として注目されるかもしれない。

 特に女性の場合は、男性と違い、食べている料理で会話が盛り上がる傾向がある。もし、飲食店の周辺の住宅街で、主婦同士がオンライン飲み会をするのであれば、それぞれの参加者の自宅に同じ料理を宅配してあげるサービスも、飲食店ならではの楽しい時間と空間の提供になるのではないだろうか。

 次に飲食店のテイクアウトの弱みを潰す戦略を考える。

 まず、価格の面に関しては、大量生産をするコンビニやスーパーに勝つことは難しい。付加価値をつけて高い料理を出し続けるとしても、テイクアウトの価格には限界がある。特別な日に値の張った料理をテイクアウトしてもらったとしても、お客様が食費を安く抑えたい日にそれに応えられるメニューがなければ、店から足が遠ざかってしまう原因になりかねない。

 価格が安いものを用意して、来店頻度を上げることで、お客様の「買いやすさ」を高めるのも一手である。

・自宅でご飯を炊くお客様に、おかずだけを販売する
・パスタを自分で作るお客様に、ソースだけを販売する

 など、〝部分売り〟でお客さまに提供すると、価格を抑えて、なおかつ付加価値を下げずに来店頻度を上げることができる。

 もちろん、高い単価の商品を買ってもらいたい気持ちもあるが、巣ごもり消費の時期のお客様の財布の紐は想像以上に固い。「高い料理も買えるし、ちょっとした美味しい料理も買える」というダブルスタンダードのお店のほうが、買い回りの回数が増えて、安定した売上を確保することができるようになる。

告知と支払いの工夫で「買いづらい」という弱点を潰す

「買いづらい」という問題に関しては、ポスティングやビラ配り、新聞の折り込みチラシなどを使って、地域のお客様に「テイクアウトをはじめました」ということを、しっかり宣伝することである。飲食店の立地と、コンビニやスーパーの立地はまったくの別物であり、呼び込む仕掛けがなければ、飲食店までわざわざお弁当を買いに来てくれる導線を作ることはできない。

 地域のお客様にメニューを配るだけでも、反応は変わる。テイクアウトの事業の認知度を上げるための宣伝活動は積極的におこなったほうがいいだろう。また、地元のホームページ制作会社の協力を得て、テイクアウトができる飲食店を集めたサイトを作るのも、集客増につながる施策といえる。

 店頭には、テイクアウトを始めた旨を大きく告知する看板やポスターが必要である。わかりづらい「テイクアウト」という言葉よりも、

「持ち帰りのお弁当始めました」
「ご自宅まで夕食を届けます」

 という日本語のキャッチコピーのほうが、お客さまには伝わりやすい。通行人に買ってもらうのであれば、店内に入って買ってもらうのではなく、店の前にテーブルを置いて専用の売場を作ったほうが買いやすくなる。

 今後は感染リスクを避ける人が増えることが予想されるので、カードやキャッシュレスによる支払いが増えると思われる。ネットショップのカート機能を使えば、事前にカード決済もできるようになるので、非対面でお弁当の販売や宅配事業をおこなうことも可能である。ネットのリテラシーが低い人に対しては、透明なジップロックにお金を入れてやりとりする原始的な方法も喜ばれる。支払い方法を臨機応変に対応できる体制は整えておいたほうがいいだろう。

スーパーやコンビニの弱点を徹底的に攻めていく戦略を立てる

 最後に、スーパーやコンビニの弱点を徹底的に攻めていく戦略を立てる。お総菜や自分の料理が飽きた人に対して、限定メニューや季節のメニューを提案したり、作りたての料理をお客様に届けたりするサービスは、「やっぱり飲食店の食事のほうが断然いい」と思わせるきっかけにつながる。

 また、オーダーメイドの料理を宅配で届けることも、スーパーやコンビニには絶対にできないサービスになる。そのような相手の弱点に攻め込む戦略は、飲食店のテイクアウトの大きなアドバンテージになるといえる。

購入はこちらから(Amazonへ遷移します)

かんたんそうに見える飲食店のテイクアウト事業も、じつのところ難易度は高く、同じ食を扱う仕事でもビジネスモデルがまったく違う。飲食店という待ち受けの「プル型店舗ビジネス」から、お客様を取りに行く「プッシュ型営業ビジネス」に切り替えていかなくてはいけないので、経営の感覚は真逆になる。

 また、感染リスクを抑えるために、リアルとネットを融合させた販促を仕掛けていかなくてはいけないので、情報発信が苦手な飲食店は苦戦を強いられてしまう。固定観念があると改善スピードが遅くなってしまうので、過去の経験をすべて捨て去るぐらいの大胆な発想が飲食店の経営者には求められる。

 今回はコロナ禍という逆風の中で新規事業を立ち上げることになるので、いきなり事業がうまくいく可能性のほうが低いといえる。スタッフ全員で知恵を絞り、試行錯誤を繰り返しながら答えを見つけていく地道な努力が必要となる。すぐに結果を求めようとしない冷静さも持ち合わせていなければいけない。

 また、テイクアウト事業だけでは単価も下がり、従業員のモチベーションを維持することも難しい。今後は、感染リスクを抑えた実店舗の運営と、テイクアウトの事業は2本立ての収入の柱として考えなくてはいけない。