アダストリアが嵌った物流倉庫の統合効率化という「部分最適」の罠

小島健輔 (小島ファッションマーケッティング代表)

日本経済新聞は「アダストリアが兵庫県神戸市の自動化新物流拠点を2026年7月以降に稼働させて東西に対応するロジスティクス体制を構想している」と報じているが、レナウンの習志野インテリジェント・ジャンクション(1992年稼働の統合セントラルDC)やユニクロの有明自動倉庫(2018年稼働のEC専用セントラルFC)を想起したと言ったら意地悪が過ぎるだろうか。どちらも出荷倉庫としての運営効率を追求して自動化を極めたが、前者は煩雑な返品・振替・再投入という百貨店流通の現実と乖離してコストとタイムラグがかさんで業績悪化の一因となり、後者は店舗物流と乖離してEC注文品の店在庫引き当て店渡し/店出荷というOMOに乗り遅れるという戦略ミスを招いてしまった。アダストリアにとって、国内7拠点に分散している物流倉庫を統合効率化するという構想は果たして吉と出るか凶と出るか。飲食も含む多業態・多サイト・多拠点展開というアダストリアの実態にセントラルDC体制は適しているのだろうか。

※DCとTCとFC・・・・入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDC(Distribution Center)に対し、棚入れせず仕分けして送り出す通過型の物流施設がTC(Transfer Center)で、FC(Fulfillment Center)は通販の出荷用DC

文=小島健輔(小島ファッションマーケッティング代表)

morenosoppelsa/iStock

アダストリアの事業展開と
セントラル・ロジスティクスはマッチするのか

 アダストリアは25年2月期連結で2931億円(対前期比6.4%増)を売り上げて155億円(同13.9%減)の営業利益を計上する大手アパレルチェーンで、ファーストリテイリングやしまむらに続く第二グループの先頭を競っている。アパレル・雑貨業態を国内に1302店舗(ほかに海外111店舗、飲食76店舗、ウェブストア141店舗)を展開しているが、物販だけで68業態(ほかに飲食47業態、アパレルFC1業態)におよぶ多業態展開で、最大規模のグローバルワークでも216店舗/売上高526.6億円に過ぎないから中小チェーンの集合体というのが実態だ。全国の主要商業施設に複数の業態を展開し、国内EC売上高も728億円(国内売上高比28.4%)に達して自社EC比率は過半を超えるが、国内の外部サイトだけでも112に分散しており、運営も物流も相応に複雑で高コストと推察される。
 
 粗利益率は連結で54.7%と高いが前期からは0.6ポイント低下、販管費率は49.4%と同0.7ポイント上昇し、営業利益率は5.3%と前期から1.2ポイント低下しているから、多業態・多サイト・多拠点展開の複雑な運営コストが収益を圧迫していると見て取れる。販管費の内訳は人件費が18.1%(同0.6ポイント上昇)、地代家賃/リース料/減価償却費の設備費が17.8%(同0.5ポイント上昇)で、物流費は「その他」に含まれ開示されていない。国内は店舗物流も自社EC物流も連結子会社のアダストリア・ロジスティクスに委託されているが、全国7拠点8施設の倉庫運営であって、店舗や顧客への運送は宅配業者に外注している。

 アダストリアの主要業態のうち、ユニクロのような「縦売り」(継続補給販売)商品を大きく扱っているのはグローバルワーク他の大型業態に限られ、ほかの業態は「横売り」(蒔き切り販売)商品が多くを占める。店舗向け物流センターはTC機能(振り分け出荷)中心で、DC機能(棚入れしてピッキング出荷)は限定されるはずだが、業態によってさまざまゆえ並行運用されているようだ。店舗向けは茨城西センターを中心に、福岡、群馬県藤岡、神戸に分散しているが、日本経済新聞は新設の西宮北センターと在来の神戸センターが西日本の店舗、23年設立の常総センターが東日本の店舗をカバーする体制に切り替わると報じている。EC向けは茨城県茨城町FCで一括しており、検品・棚入れの上、毎日の受注に応じてピッキング・方面仕分けして出荷している。

 アダストリア・ロジスティクスは『中規模拠点に分散するより大型拠点に集中して自動化するのが効率的』とアナウンスしているから、店舗向けは東西に集約するセントラル・ロジスティクスを志向していると受け取れる。これまでの分散も各リージョナルに対応したものではなく、セントラル・ロジスティクスを量的に(おそらくカテゴリーや業態で)分散していただけだから、リージョナル・ロジスティクスから転換したわけではないが、多業態に分散して「横売り」比率が高く、店間移動が必須のアダストリアの商品展開には逆行するのではないか。

 原則、蒔き切りで売れ筋を類似商品でリレーする「横売り」商品が多いアダストリアでは機動的なテザリング(店舗間の在庫融通移動)が消化促進の要となるが、セントラル・ロジスティクスでは逐一、拠点を経由して振り替えるしかなく、全国区宅配業社のハブ&スポーク物流でコストもタイムラグも肥大してしまう。しまむらのように全国10TCからのルート便で振り替えるリージョナル・ロジスティクスに比べればコストもタイムラグも倍増し、販売機会が損なわれ「最低陳列量」がかさんで在庫効率も悪化する。

続きを読むには…

この記事はDCSオンライン+会員限定です。
会員登録後、DCSオンライン+を契約いただくと読むことができます。

DCSオンライン+会員の方はログインしてから閲覧ください。

1 2 3

記事執筆者

小島健輔 / 小島ファッションマーケッティング 代表

小島ファッションマーケティング代表取締役。洋装店やブティック、衣料スーパーを経営する父母の下で幼少期からアパレルとチェーンストアの世界に馴染み、日米業界の栄枯盛衰を見てきた流通ストラテジスト。マーケティングとマーチャンダイジング、VMDと店舗運営からロジスティクスとOMOまでアパレル流通に精通したアーキテクトである一方、これまで数百の商業施設を検証し、駅ビルやSCの開発やリニューアルにも深く関わってきた。

2019年までアパレルチェーンの経営研究会SPACを主宰して百余社のアパレル企業に関与し、現在も各社の店舗と本部を行き来してコンサルティングに注力している。

著書は『見えるマーチャンダイジング』や『ユニクロ症候群』から近著の『アパレルの終焉と再生』まで十余冊。

© 2025 by Diamond Retail Media

興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

ジャンル
業態