第114回 SCのテナントミックスは“生態系” リニューアルで気をつけるべきポイントは
「リニューアルしたら売上が下がった」──せっかく投資したにも関わらず結果が出ないこともある。この理由は千差万別、悲喜こもごも、色々な要因から起こる。今日は、その一つ「テナントミックスは生態系」について解説したい。

テナントミックスとは
ショッピングセンター(SC)で日常的に使われる用語「テナントミックス」とは、テナントの構成や組み合わせのことだが、もう少し丁寧に説明すると、「SCのターゲットを前提に考案されたコンセプトが顧客の支持と顧客満足を高め、継続して来館者が訪れ、テナント売上高と賃料収入が増加し、健全な成長を実現するための適正なテナントの組み合わせ」となる。
前述の通り、SCのテナントミックスは、「誰のため」のSCか、それが決まらなければ始まらない。ターゲットとなる顧客の年齢、性別、家族構成、年収と言ったデモグラフィック、趣味趣向やライフスタイルなどのサイコグラフィック、価値観や便益などベネフィット、これらを下にテナントリストをつくり、最適な組み合わせをデザインする。
開発時と運営時のテナントミックス
日本のSC経営は不動産物件として売り買いされることは少なく、ホールドして運営利益(インカムゲイン)を収受するスタイルが多い。もちろん、開業後、売却することや流動化することもあるが、日本のSC経営は諸外国に比べると継続的な経営を志向する。したがってテナントミックスを考えるタイミングは、開発時と開業後の2つの局面がある。
開発時のテナントミックスは各種調査や分析からターゲットを設定し、その嗜好に合わせたテナントミックスを考える。その後、各テナントと協議(交渉)を経て、開業へと向かうが、この段階ではあくまで予測の域を出ない。
しかし、開業後は実際に来街者が訪れ、具体的な顧客を認識する。この時、予測と比べ若い顧客が多い時もあれば高齢者が多い時もあるが、いずれも現実は現実として受け止め、その顧客のニーズ(嗜好、要望、要求、期待)に応えることが求められる。
SCリニューアルの必要性と起こるエラー
SCは定期的にリニューアルを行うことはこの連載でもたびたび指摘してきたが、このように予測したターゲットと現実の来館者のズレが起これば、リニューアルという手法で修正する。予測より高齢者が多ければバリアフリーの充実が必要となり、子育て世代が多ければそれに合わせた商品やサービスが必要となる。
しかし、ここで大きなエラーが生じることがある。それが今日のテーマに通じる担当者の思い込みである。
思い込みにはいくつか種類があるが、大きくは、①顧客ニーズの誤解、②人気店の優先、③自分の好み、この3つに収斂される。
これらはヒューマンエラーであり、いずれビックデータによるAI予測が広まれば縮小することを期待したいが、これらエラーはテナントミックスにダメージを起こす。それがSC内生態系の混乱である。
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