第112回 2025年、装置産業としてSCが取り掛かるべきこととは

西山 貴仁 (株式会社SC&パートナーズ代表取締役)

SCは装置産業である

 SCは、テナントが安全に店舗運営を行うために、施設の計画的な修繕やメンテナンス、清掃美化、天災事変に備えた体制、防犯・防火といった人災の予防や対策など、SCそのものの魅力を維持しなければならない。エレベーターが故障し、手すりは錆が目立ち、駐車場の白線が薄れ、スリや万引きが多発するような施設で安心して店舗を運営できるはずもない。

 また、来館した客が高揚するような商業環境や歩いて疲れない動線計画、わかりやすい店舗配置、円滑な駐車場誘導など顧客満足を高めることで再来店に結びつく。これが、雑然とした空間、わかりにくい動線、高額な駐車料金、不愉快になるような接遇では再来店は期待できない。

 SCは、テナントが提供する店舗や売場を包含した装置産業であり、SCそのものが顧客の満足感を誘発することが使命である。

 テナントの売上が低迷することは、SCが営業不振に陥ることに等しい。だからと言ってテナントが扱う商品やサービスをSCがコントロールすることはできない。SCは占有権を持った賃借物件の集まりであり、定期借家契約終了が来ない限りテナントの交代は容易ではない。

 したがって、SCがコントロールできることは「いかにSCに対する不満をなくし、満足感を高めるか」、この1点である。SCの製品性能は非常にわかりやすい。それは集客力と顧客の滞在時間である。SCに魅力があれば来館するし、楽しければ長い時間滞在する。

 逆に魅力がなければ来ないし、不快な思いやつまらない時間であればすぐ帰り、最悪、2度と来ないだろう。

 この製品性能を高める方法は、顧客の声を吸い上げ、そこから聞く不満を取り除き、満足を伸ばすこと――この連続である。客がどこに不満を感じているのかを知ることからスタートする。そして忘れてはならないのは、「お褒めの言葉」の共有である。

 不満は口に出やすい一方、称賛の声は相当の感動を生んだ証拠である。客が何に感動してくれたのか。われわれが気づいていないだけかもしれない。25年は、すぐにSCの製品性能の向上に取り掛かってほしい。

西山貴仁 
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

小田原市商業戦略推進アドバイザー、SCアカデミー指導教授、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒

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記事執筆者

西山 貴仁 / 株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。201511月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒

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