しまむら(埼玉県/鈴木誠社長)は郊外市場をメーンとしてきたが、地方人口の高齢化や減少が加速する中、店舗大型化による市場シェア拡大とともに、東京23区など「大都市圏の開拓を進める」と、鈴木誠社長は明言した。「バースデイ」や「アベイル」、「ディバロ」といった“ポストしまむら事業”の育成に力を注ぐ一方、ECや海外といった新規事業の開拓も進め、2030年までに売上8000億円以上を目指す構えだ。
聞き手=阿部幸治(本誌)、構成:野澤正毅 *インタビューは2023年5月下旬に実施
「バースデイ」1000億円「アベイル」900億円へ
――売上高では30年2月期に8000億円以上をめざしています。
鈴木 国内市場が縮小していくなか、これまでの延長線上では、成長できません。当社は郊外型店舗が主力ですが、とりわけ、地方では高齢化、過疎化が進行し、大都市圏に比べると、市場環境が一段と厳しくなっています。そこで現在は付加価値型PBの拡充といった商品力の強化によって、売場面積当たりの売上高や利益の向上を図っていますが、並行して、新しいカテゴリーや業態の開発も進め、新規出店による新たな市場も開拓していく方針です。
――既存店売上高は、毎期対前期比2~3%増とプラスを維持する計画です。主力事業の「しまむら」をスクラップ&ビルドなどで大型化し、売上を高めていく戦略でしょうか。
鈴木 そうです。しまむらの主戦場である郊外は今後、パイの拡大は期待できません。店舗を大型化して、取扱いカテゴリーも拡大し、市場シェアを高めようと考えています。現在、1200~1300㎡の新型フォーマットの出店に取り組んでいます。1,300㎡超の店舗は、23年2月期末で48店舗あり、今後も増える見込みです。衣料品ではゴルフウェアなどを拡充しており、化粧品や健康関連用品、キャンプ用品などにもトライしています。
――しまむらに次ぐ経営の柱として、ヤングカジュアルファッションの「アベイル」や子ども・ベビー用品専門事業の「バースデイ」、雑貨が中心の「シャンブル」の出店にも力を入れています。
鈴木 アベイルも、バースデイもともに現在、約300店舗なので、まだ出店の余地は大きいです。30年までに、アベイルは約900億円、バースデイは約1000億円の売上規模まで成長させたいです。チェーンが拡大すれば、新事業もスケールメリットが生かせるようになるので、利益への貢献度もアップすると期待しています。一方で、しまむらの売上構成比は現在、約75%ですが、2030年には約70%まで低下する見通しです。
大都市圏に攻勢をかける
――伸びしろのある大都市圏の攻略については。
鈴木 まだ手薄ですが今後、深耕していきたい市場です。とりわけ、ターゲットにしているのが首都圏。現在は、私鉄沿線などの郊外エリアから出店を進めていますが、いずれ東京23区にも本格攻勢をかけたいと考えています。
標準フォーマットで出店したいですが、立地条件が限定されるため、柔軟に構えています。場合によっては、500㎡規模の出店もありえるでしょう。アベイルの場合、知名度がまだ低いので、大都市圏でも郊外と同様にしまむらとの共同出店になる一方、バースデイは大都市圏でも単独出店を進める方針です。
――20年10月から開始したEC事業はいかがですか。
鈴木 オンラインストアは、全国から集客できるうえに、郊外がメーンのリアル店舗と違って、大都市圏のお客さまにもリーチしやすいのが大きなメリットです。客層が若くニーズが多様化しており、トレンドの変化も目まぐるしく、商品回転が速いのも特徴です。例えばアベイルでは、大都市圏の若年層をターゲットに、「ゴシック & ロリータ系」「サブカル系」などニッチなカテゴリーをセグメントしたEC独自の品揃えを拡充し、大人気となっています。
全国約2200店舗のリアル店舗網を活用し、商品の店頭受取りサービスも提供しています。ECのバースデイで購入した商品を、事前決済していればしまむらの店舗でも受け取れるため、利便性が高いです。ECのお客さまの約90%が店頭受け取りを利用されており、受け取る際に、“ついで買い”されるケースが多く、客単価も上がっています。
EC専用商品は、一定の販売期間が過ぎると在庫をリアル店舗に回して、売り切るといった対応をしています。そうすることで、オンラインの商品鮮度を維持し、プロパーの消化率を高めるのにも役立っています。
――23年度のEC売上目標は50億円です。拡大に向けた戦略は。
鈴木 ロジスティクスがネックになっています。EC用の物流センターは現在、埼玉県東松山市に1カ所しかないので、商品配送のキャパシティに限界があります。そこで、2027年頃をめどに関西にもEC用の物流センターを増設し、売上予算を100億円に倍増させる計画です。さらに、EC商品を、EC用の物流センターを介さずに、サプライヤーから店舗に配送する仕組みも徐々に拡大しています。
――最後に、今後の消費動向をどう見ますか。
鈴木 足元の2023年度第1四半期の状況では、客単価はプラスですが、内訳は一点単価が前期に比べて約8%上がった一方で、買い上げ点数が約3%減っています。物価高騰が続いている影響でお客さまは値上げに対してだいぶ寛容になってきたようですが、財布のヒモは緩めていません。消費市場は依然、厳しいと見ています。とはいえ、政財界が取り組む賃上げが国民全体に行き渡ったら、状況は好転するかもしれません。