若い年齢層を獲得する新たな商品を投入し日本酒市場の活性化を進める=菊正宗酒造 嘉納治郎右衞門 社長
辛口を特徴とする日本酒メーカーの菊正宗酒造(兵庫県)。商いの起こりは江戸時代初期に遡り、2019年、創業360年を迎えた。伝統的な製法「生酛(きもと)造り」を守り続ける一方、新たな製品にも積極的にチャレンジ、今も新たなファンを獲得する。嘉納治郎右衞門社長に現在の取り組み、今後の展望などについて聞いた。
聞き手=阿部幸治(本誌) 構成=森本守人(サテライトスコープ)
守り続ける「生酛造り」
──菊正宗酒造の創業は江戸時代初期の1659年で、2019年、創業360年を迎えました。
嘉納 ひとえに当社製品のご愛飲者の方々、またお取引先さま、納入業者さま、農家の方々など、みなさまのおかげだと感じております。実は19年、当社にとり創業360周年であるとともに、会社設立100周年にもあたります。これまで以上に、各方面へ感謝の気持ちを持つ機会にしようと、社員ともども話しているところです。
──360年という長い歴史のなか、日本酒の造り方もずいぶん変化してきたのでしょうか。
嘉納 いいえ、江戸時代から今日にいたるまで、当社が酒造りの中心に据えてきたのは「生酛造り」。菊正宗がこだわる、淡麗辛口の酒質を実現するために不可欠な製法です。アルコールを生成する酵母を育てる「酛」(酒母)を、水と米と米麹から、昔ながらの手作業で約4週間かける、日本酒の原点ともいえる造り方です。
ただ時間がかかり、また品質を安定させることが難しいため、全国で1000以上ある酒蔵のなかで伝承しているのは菊正宗を含めてわずか数蔵に過ぎないのが現状。当社では今後も、この伝統的な製法を守り続けていく考えです。
──さて、大きな節目を迎えた2019年、何に取り組んでいますか。
嘉納 従来、当社が掲げてきたのは「辛口ひとすじ」。さらに19年、大きな節目を迎えたのを受け、次の時代を見据えて「灘から世界へ。」という新しいコーポレートスローガンを制定しました。このもとで、灘の酒の復権、さらに飛躍をめざします。
酒のほか、新しい分野にも積極的に挑戦していきます。日本酒メーカーの当社が持つ発酵技術を活用し、近年、需要が高まっている美容や健康関連の製品も広げていきたい。「酒」「美容」「健康」という3つのテーマを追求、次代に向け進んでいこうと志を新たにしているところです。