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アリババ現地レポート2 ニューリテール戦略で息を吹き返した”眠らない”百貨店

前回はアリババのテクノロジー・カンファレンス「雲栖大会」の概要やコンセプトについて簡単に解説した。ここからは、同大会で経営陣から語られた具体的な事例や見方についてレポートしていく。小売業関係者向けに開催された「ニューリテールサミット(雲栖大会新零售生态峰会)」で明らかにされた、アリババグループの百貨店「銀泰百貨」のニューリテール戦略の成功事例について解説する。 

ニューリテール戦略で「眠らないデパート」が誕生!?

銀泰百貨の陳CEO

 ニューリテールサミットに登壇した銀泰百貨の陳暁東(チャン・シャオドン)CEOは、「銀泰百貨は世界初に眠らないデパートになった」という印象的なフレーズを用いて、ニューリテール戦略が百貨店ビジネスにも成功をもたらしたことを参加者にアピールした。

 まず、銀泰百貨が進めるニューリテール戦略について詳しく説明しておこう。同社はOMO(Online Merger Offline:オンラインとオフラインの融合)を加速させるため、独自に「喵街(ミャオジェー)」というアプリを開発。リアル店舗だけでなく、オンラインからも商品の注文を迅速に行える仕組みを構築した。このアプリを使えばいつでもどこでも銀泰百貨の商品を注文できるのはもちろん、店内で買物する際にも、重くて持ち帰れない商品はアプリ上で注文し配達してもらうといったことも可能だ。

 ちなみに銀泰百貨は、店舗閉店後の夜10時以降が最もアプリが活用される時間帯だと明らかにしている。こうした現象を受け、陳CEOは「銀泰百貨は世界初の眠らないデパートになった」という言葉を残したのである。ちなみに、中国の百貨店業界の動向をレポートした「2018年中国百貨店発展報告」では、調査対象企業90社のうち対前年比42%が減収となっており、日本同様に中国でも百貨店の市場は縮小傾向にある。しかし、そんななかで銀泰百貨は同37%もの増収を記録しており、アプリ導入をベースとしたニューリテール戦略が功を奏していると言えるだろう。

ピッキングロボット、テナント向けのAI融資サービスも導入

銀泰百貨で導入されているピッキングロボット

 銀泰百貨が推進するニューリテール戦略の取り組みはミャオジェーにとどまらない。例えば、ミャオジェーから注文された商品を店内のテナント店舗からピッキングするのは、アリババグループの物流企業である菜烏網絡(ツァイニャオ)が製造した物流ロボットである。銀泰百貨では注文後原則として1時間以内に商品を配達することをめざしているが、これを効率よく実現するために必要なピッキングロボットの製造をツァイニャオがサポートしているのである。

 また、銀泰百貨にテナントとして入居する企業は、アリババグループの金融部門を統括するアントフィナンシャルが提供するAI融資サービス「網商貸」を利用することができる。アントフィナンシャルは同社が提供する決済サービス「アリペイ」によって可視化されたデータを管理することで、テナントの売上や資金繰り状態を管理できる。こうしたデータを活用することで、入居するテナント企業に対して即時実行可能なAI融資を提供しているのである。

 従来のAI融資サービスといえば、オンライン領域に限定されたものであったが、ニューリテール戦略によってリアル店舗(=オフライン)の領域でも展開できるようになっているわけである。

リテールビジネスは壮大なスケールで「再設計」される

アリババのオペレーションシステム(筆者作成)

 実は、アリババは今年から「アリババ・ビジネスオペレーティングシステム(阿里巴巴場商業総作系統)」という名称で”ニューリテール化”に必要なシステムをパッケージ化し、外部企業のニューリテール戦略をサポートしている。このパッケージには物流、金融、デジタルマーケティング、組織オペレーションなど11個の機能が含まれている。

 これまでニューリテール戦略を解説する上では、OMO(オンラインとオフラインの融合)という部分に焦点が当てられることが多かったように思う。しかし、今後はリテール産業が物流や金融などのエコシステム全体と融合し、より壮大なスケールのもとで再設計される時代に突入することになる。中国メディアがその状況をみて「ニュー・リテール2.0時代の到来」と表現したのは前回言及したとおりである。

 次回は、日本企業にも密接に関連するパパママストアのアップグレード事例である零售通(リンショウトン)について解説する。