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店員の万引きを機に、店のマネジメントを大胆に変える方法

このシリーズは、部下を育成していると信じ込みながら、結局、潰してしまう上司、あるいは逆に人材活用が上手で成功している企業や店を具体的な事例をもとに紹介する。いずれも私が信用金庫に勤務していた頃や退職後に籍を置く税理士事務所で見聞きした事例だ。特定できないように一部を加工したことは、あらかじめ断っておきたい。事例の後に「こうすれば解決できた」「ここが良かった」という教訓も取り上げた。
今回は、私が2年前にヒアリングをして、店員の万引きをきっかけにマネジメントに取り組み始めた事例を紹介したい。

Photo by boonchai wedmakawand

第27回の舞台:飲食店向け備品の販売店

(店長以下、アルバイト6人)

 

顧客との関係性も引き継いでくれるアルバイト店員

 都内東部に、飲食店などのフォークやスプーンを仕入れて販売する店が多数並ぶ地域がある。その一角に、4代目の店主(36歳)が経営する店がある。当時、店員は6人で、全員がアルバイトだった。平均年齢は30代後半。勤続年数は平均2年と短く、人の出入りが激しいことに店主は頭を悩ませていた。

 それ以上に店主を悩ませていたのが、店員たちによる万引きだ。それに気づいた時、先代(父親)の勧めもあり、店内に防犯カメラを設置した。翌日確認したところ、店員が帰り際、店内の商品をかばんに入れている姿が映っていた。金額にすると、1回につき、2万円程だった。

 店主は父や顧問の社会保険労務士と相談のうえ、万引きをしたと思える店員と話し合った。当初は否定したが、映像を見せると、あっさりと認め、退職した。本人への聞き取りでは通算で50回以上繰り返し、金額にすると、100万円を超えるという。その後、映像を確認していくと、ほかにも2人が万引きをしていたことがわかった。

 いずれも事実を認め、さほど悪びれた様子もなく、退職した。被害を受けた額は2人合わせて数十万円にはなっていた。全員が弁償はしていない。店からも、あえて求めはしなかった。店主の見立てでは、3人が互いに連絡をとったうえで繰り返していたようだ。

 店主は、「実際の正確な被害額はわからない。万引きをされることを前提に商品の仕入れをしているが、まさか複数の店員がしているとは思っていなかった」と話す。それ以降、社会保険労務士の勧めもあり、毎日数回、「班会」と称して全員で話し合いの機会を設けている。個々の担当や現状、問題点、今後の課題について共有するためだ。以前は、年に数回しか話し合いの場はなかったという。

 この取り組みをしたからといってすぐに効果が出るわけではない。現在でも話の流れはスムーズにならず、時に意見の違いが表面化し、口論になる場合もあるという。店主は、「それでも、事前に店員の動きを把握することができる点で意味は大きい」と話していた。

 

情報共有の徹底が“悪事の温床”から決別する第一歩

 今回は、店員による万引きをきっかけに、店のマネジメントのあり方を考え直した事例と言えよう。私が導いた教訓を述べたい。

今後すべきこと①
万引きは、店のあり方を表す 

 万引きという深刻な問題を契機にマネジメントを見つめなおしたことは、店主の力量のレベルが高いことを物語っている。私の観察では、多くの会社は万引きをした店員や社員を叱り、社内に「かん口令」をしいて終えようとするケースが目立つ。それも1つの解決策かもしれないが、問題の本質にメスを入れているようには見えない。

 今回の事例では、万引きをする店員が、6人のうち、半数を占めていたのは店の管理に問題があったからなのではないだろうか。たとえば、定着率が低いことだ。勤続年数2年は、相当低い。人の出入りが激しい場合、何かとトラブルが起きやすい。店員たちの万引きも、その1つととらえるのが妥当だろう。

 店主は現在、店員間の情報共有を徹底させようとしている。万引きに限らず、店員の問題が生じるとき、それぞれが個々でバラバラに動くような態勢になっている場合が多い。そのことが、状況いかんでは悪事をはたらく誘因になっているケースがある。日ごろから、店員たちが互いに結びつく場や機会を意識して増やしていくようにするべきであり、今回はその好事例とも言える。

今後すべきこと
情報共有を徹底させる

 店主は、「事前に店員の動きを把握することができる」とも話していた。店員間の情報共有が浸透すると、何かがあったときに、あるいはありそうな場合、誰からか連絡が入るようになりつつあるという。この態勢が万引きだけでなく、仕事についての情報共有を深めるのではないだろうか。仕事のミスやトラブルがしだいに減り、この店で働くことが楽しくなり、定着率が上がるようになる。

 これがますます、職場の雰囲気をよくする。そして、仕事力の高い店員を育成する土台や風土となる。情報共有には、実はそれほどに深い意味がある。ここに目をつけたことは、極めて優れた判断なのではないだろうか。

 万引きを否定するのは当然としても、そこから先にどれほどに考えることができるか。そこが、大きなポイントなのだ。

 

 

神南文弥 (じんなん ぶんや) 
1970年、神奈川県川崎市生まれ。都内の信用金庫で20年近く勤務。支店の副支店長や本部の課長などを歴任。会社員としての将来に見切りをつけ、退職後、都内の税理士事務所に職員として勤務。現在、税理士になるべく猛勉強中。信用金庫在籍中に知り得た様々な会社の人事・労務の問題点を整理し、書籍などにすることを希望している。

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