「株主は地球」環境負荷を最小限にするパタゴニアの「スロー」なビジネス戦略の神髄
「マーケティング」より「ストーリーテリング」
1993年には世界で初めてペットボトルから再生ポリエステルを使用したフリースジャケットを販売し、1996年にはすべてのコットンをオーガニックコットンに転換するなど、「サステナビリティ」「SDGs」という言葉が市民権を得るはるか前からビジネスと環境保護の両立に取り組んできたパタゴニア。その活動はもはや「環境保護団体をサポートする世界的な営利企業」といってもよいだろう。
そのパタゴニアは、マーケティング戦略も非常にユニークだ。というより「利益が環境保護団体などの寄付や環境事業を行うスタートアップへの投資に回るので、マーケティングにほとんど予算が与えられない」と川上氏は苦笑いする。
パタゴニアが創業以来重視しているのは、マーケティングより「ストーリーテリング」。同グループの映像会社「パタゴニア・フィルム」が製作した動画を店内やECサイト上で放映し、世界中の環境危機の現状や環境保護活動への関心を高めながら、ブランドへのエンゲージメントを醸成している。
草の根でファンを地道に増やしていく活動に注力。例えば「ウォーン・ウエア(Worn Wear)」は、着古された服を修理して「長く着る」吟味した消費の在り方を提唱するプロジェクトで、2019年には全国の大学を巡るキャラバンを展開した。ミシンを携えた修理スタッフの前には、大学生が思い思いの服を手に行列をつくるほどの人気だった。その後も、2020年8月まで目白ストアで中古品の販売を行ったり、2021年には渋谷店で大々的に期間限定の「ウォーン ウエア」プログラムを実施したりと好評を得た。また、下取りサービスは昨年すでに2店舗で実証実験しており、数百着が集まったという。2021年から神田店ではテクニカルウエアのレンタルサービスも行っている。
「ポンと打てば成果の出るマーケティングと異なり、ストーリーを伝えるには時間がかかる」(川上氏)。だが、こういった草の根活動を長年継続することで、全国各地にパタゴニアのファンコミュニティが存在し、その輪は着実に広がっている。
昨今のアパレル業界においても顧客エンゲージメントを高めてLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を高める方向にマーケティングの軸足が移っているが、それを創業時からぶれずに続けているのがパタゴニアなのだ。一周回ってマーケティング戦略の最先端を走っているともいえるのではないだろうか。