今回は、日ごろあまり語られることが無いアパレル業界の市場占有率、そして、企業シェアと戦略についてその特異性について述べたい。そこからは、アパレルビジネスの特異性と、デジタル化を阻害する要因が実にくっきりと見えてくる。
ユニクロとそれ以外に分断されたアパレル業界
帝国データバンクの2018年調査数字によると、自動車産業の国内市場規模と各社のシェアは、1位がトヨタで40%、2位が本田技研で21%、3位が日産自動車で16%となっている。トヨタ、本田、日産で日本の全シェアの約80%弱を占めているので、この3社を語ることで日本の自動車産業の多くを語ることもできよう。つまり、「トヨタがくしゃみをしたら業界が風邪を引く」わけだ。このような産業構造の場合、上位企業の動向・戦略は自社の将来戦略立案にとても重要な意味を持つことはいうまでもない
これに対してアパレル業界は、(従来は別分類されていた小売りも含めた衣料品販売という括りで統計すると)某コンサルティング会社の試算によると、2018年度、上位10社で市場全体の40%を占め、残りの60%は約2万社弱がひしめき合う超ウルトラ・ロングテール産業で、さらに、その上位10社の中でファーストリテイリング 1社が約20%も占めている。
ここまで1位と「それ以外」に差がつくと、ファーストリテイリングは別物と考えた方が良さそうだ。アメリカ人の友人にこのチャートを見せると、むしろロングテール側に目が行き。「fragmentated !」 (私は、この言葉が一番しっくりきている)といっていた。でかいチェーンストアを前提に改革をすすめる彼我の差を、そっくりそのまま海外の事例を日本に当てはめようとする人達に、私はこうして説明している。
この産業構造が意味する示唆は多い。例えば、アパレル企業の中心を構成する年商100 – 500億円規模のごまんと存在する企業が、個社で売上を30%程度伸張、あるいは縮小させても産業構造にはほとんど関係ない。くしゃみをしても鼻水が垂れる程度。つまり、個社の具体的な戦略は、大きなマクロ環境から導く古典的な戦略論では意味が無いということになる。それほど、中小企業がひしめき合っている業界なのである。
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複雑すぎるバリューチェーンパターンの副作用
複雑すぎるバリューチェーンパターンの副作用
加えて、ここに、さらに、無数の中小の企画、PR、卸、代理店、商社、付属供給や生地、縫製工場から紡績工場、素材メーカーなどが入り交じり、「服」に携わる企業の数は、国内外あわせると天文学的な数字となる。私が過去分析した約80億程度のアパレル企業のバリューチェーンは、仕入先は1000社を超え、ほとんど違いのない重複機能が全体の30%もあり、また、そのパターンは33にまで及んだ。
たった100億弱の企業で、仕入れ先が1000社を超えバリューチェーン・パターンが33もある。これが、1,000億、3000億の中堅アパレルになるとその複雑性はどれほどになるか。想像に難くないだろう。これに対して、商品計画やものづくりの業務フローがしっかり組み立てられているアパレル企業は、仕入れ先を数社に絞り、情報の流れや商品の流れもシンプルにし「見える化」している。
驚くべきは、こうした数千社、数十パターンという非効率と伝言ゲームの塊であるバリューチェーンに、海外製のパッケージを導入しようとする動きである。いうまでも無いが、パッケージというのはベストプラクティスといって、一応、「理想的」といえる業務フローを前提に作られ、わずかなパラメータ設定で動くことが可能だしITベンダーもそう吹聴する。しかし、よく考えてもらいたい。数千もの仕入れ先と数千、下手をしたら数万通りの複雑な企業間連携を前提に標準化されたパッケージがノン・カスタマイズで入るはずがない。まずは、ブラックボックス化されたバリューチェーンの整理整頓が必要なのだ。これはITの話では無く、業務フロー整備の話である。しかし、こうした本質的な部分から手をつけてゆこうと考える企業は意外と少ない。
例えばPLM(生産管理システム)のような海外製のパッケージが、日本ではスポーツ衣料、シューズメーカーなど、自社内で企画、生産、販売が完結するような一気通貫型(自社グループ完結型)企業にばかりに導入させ、日本のアパレル企業には一社も(あるいは部分的にしか)導入されないのは、こうしたことが原因なのである。
私が講演を行うと、「その話は聞いた。もっと新しい話はないか」という質問が必ずでてくるが、改革に魔法の杖は無い。私は、これを改革のABC (A あたりまえのことを B バカにせず C ちゃんとやる)と呼んでおり、「もう、そんなことはやりました」という言葉を聞けば聞くほど、「やりきったのか」と「正しいやりかただったのか」を見に行くことにしている。
まずは、ビジネスフローをとにかくシンプルにし、不要な業務、不要な商品、そして、不要な時間をしっかり仕訳し、外部の取引先と共同でビジネスモデルそのものを普遍的にすべきである。例えば、商社などは、こうした販売先と仕入れ先、部材供給業者や物流の中間に位置し、これらのばらついた業務のバッファー役となっているため、いつまでたっても手書きの縫製仕様書を受け取るところからビジネスが始まり、ハイテク技術もその力を発揮することが難しくなる。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)