2019年6月19日から21日の3日間、東京ビッグサイトにて、業界日本最大の“マーケティングの総合展”と言われる第11回「販促・マーケティング総合展【夏】」が開催された。同展示会は6つの専門展で構成され、3日間の来場者数は4万名を超えた。出展内容およびセミナーを通じ、気になるテーマ、キーワードに関する動向をレポートする。第1回はアマゾンのAWSのこれから、をお届けしよう。
アマゾンがBtoB向けにECを展開する理由
アマゾンは言わずと知れた世界最大のEC企業であるが、AWS(Amazon Web Service)で知られるクラウドコンピューティングサービスでも世界シェア30%を超える世界最強のシステム会社でもある。
同社の企業理念のひとつに「地球上でもっともお客様を大切にする企業」というものがある。創業以来この考えは徹底されており、社内で何かを決めるときには、必ず「お客様のためになるのか」が基準になるという。
アマゾンジャパンでは、2017年よりAmazonビジネスをスタートさせた。法人あるいは事業者を対象にしたBtoB向けのECサービスである。
BtoC(対消費者)向けECのアマゾンが、なぜ、BtoB向けECを始めるのか。
現在、アマゾンジャパンAmazonビジネス事業本部事業本部長として同事業を担当する石橋憲人氏は、「B2B ECとアマゾンの戦略について」と題するセミナーにおいて、そのきっかけを次のように語っている。
「日本国内でもBtoCを対象に2000年にスタートしたが、事業規模が拡大するなかで、個人の登録ユーザーが会社での仕事のために自分のアカウントを利用して物品を購入し、その後、会社に請求し精算する、という使われ方が少なくないことがわかってきた。つまり企業購買にアマゾンを利用するケースが多いということだ」
そもそも従来のアマゾンのサービスは個人向けのものだから、法人ユースとして利用するのには使いづらい。それでも現実には利用するユーザーがいる。お客様第一主義のアマゾン流に考えれば、そこ(BtoB)に商機とか、ビジネスチャンスがあるとかに関係なく、そこに顧客がいれば、顧客の利便性をどんどん高めていくのが必然になる。
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Amazonビジネス6つの特徴
アマゾン・ビジネス、6つの特徴
石橋氏によれば、Amazonビジネスには法人利用に適した、次の6つの特徴があるという。
(1)豊富な品揃え
数億点あると言われる品揃えは、Amazonビジネスに限らず、アマゾンの特徴でもあるが、建築資材やDIY用品はもちろん、カーポート、介護用品、空調設備、産業研究開発用品、計測機器、1個数十万円もするようなセンサーも取り揃えている。
(2)法人価格
個人用では設定していなかったボリュームディスカウントや、お得に購入できる法人価格もある。数量によっては値引き依頼も可能だ。
(3)選べる支払方法
個人用にはない、請求書払いが可能。たとえば月末締めの翌月末支払といったまとめ払いにも対応している。もちろん、コンビニ・ATM・ネットバンキング・電子マネー・代金引換など、これまでの決済方法も利用可能だ。
Amazonビジネスは欧米でもすでにサービスをスタートしているが、欧米では掛け払いという商習慣がないため、日本でのサービス提供には社内で抵抗があったようだが、どうしても必要ということで実現したという。
(4)複数ユーザーで利用が可能
購入商品によって、決済権者、承認フローを変えることにも対応する。
(5)Businessプライム
最大3ユーザーまでは年会費4900円(税込)。配送サービス無料のほか、組織や役職により購入できる商品を制限するといったことも可能になる。
(6)購買分析・レポート機能
いつ、どこの組織で、誰が、どれくらい購入したかのデータが詳しく分かる。
これまでのところ、日本国内では7割以上の国公立大学でAmazonビジネスを利用しているほか、ユーザーの業種・業界、規模(大企業から中小企業、個人事業主)もさまざまだ。
世界規模で見ると、ユーザー数は100万社以上、年間100億ドル(1.1兆円)以上の売上になっている。
ではこのAmazonビジネスは、既存の流通小売事業者にどのような影響を及ぼすのだろう。
たとえば、アマゾンがDIY商品を充実し始めたころのことだが、ある建築関係の人から、通常の建築資材についてはプロ向け資材を扱うなじみのホームセンターで「プロカード」を使って購入するが、急ぎの場合や当座の間に合わせには、現場からアマゾンに注文することが増えている、という話を聞いたことがある。しかし、Amazonビジネスならば、「プロカード」的な使い方も十分できそうだから、今後、アマゾンとホームセンターの使い分けは必要でなくなってくるかもしれない。
また、とくに中小規模の企業では総務の備品購入にアスクルほかの通販を利用しているところが多いが、その選択肢のひとつにAmazonビジネスが加わるということも、容易に想像がつく。
流通小売事業者にとって、アマゾンは巨大な競合である。しかしその一方で、マーケットプレイスやAmazonビジネスを活用すれば強力なパートナーともなる。アマゾンを敵に回すも、味方につけるも、あるいはそれぞれを使い分けるも、考え方次第、戦略次第になるだろうが、顧客を敵に回すことがあってはならない。