東急ストア(東京都)の業績が好調だ。とくに既存店売上高は2019年2月期まで6期連続で前年をクリアしている。12年5月から社長に就任し、この好業績へと導いてきた須田清社長に、実践している施策と今後の成長戦略を聞いた。
肥沃な商圏!2035年まで人口が増える
──2019年2月期は営業収益が対前期比0.3%増の2145億円、営業利益が同7.2%増の32億円と増収増益を達成しています。
須田 会社が安定的に成長しているかを見る指標として、既存店売上高の伸び率を重視しています。社長就任後からとくに既存店を伸ばすことに力を注ぎ、14年2月期から6期連続で前年実績をクリアし続けてきました。
19年2月期も客単価が伸長し、既存店売上高が同0.6%増とお客さまから一定の評価を得られたことが好業績につながっています。
20年2月期に入ってからも5月まで既存店売上高は好調に推移しています。要因の1つは4月から他社クレジットカードでの支払いでも、東急グループのポイント「TOKYU POINT」を付与する施策を実行したことです。これによりカード会員数が増加しています。
──カード会員を増やすことにより、固定客化を進めているのですね。
須田 ええ。一般のお客さまと比較して来店頻度、売上高ともに高いですから、このロイヤルユーザーをいかに増やしていくかが将来の成長に欠かせないポイントになるでしょう。
カード会員の年代別構成比は70歳以上の高齢者が最も多く、全体の約3割を占めます。
一方、東急線沿線は2035年まで人口が増加する見込みで、若い世代も増えています。これは競合他社と比較して当社の大きな優位性と言えるでしょう。今後は高齢者のロイヤルティをさらに向上させるともに、30~40代の若い世代の需要を新たに取り込んでいきます。
──若年層の獲得のために何が重要だと考えますか。
須田 価格対応のほか、品揃えの拡充です。なかでも品揃えでは、有職女性や共働き世帯が増加するなか需要が伸びている、「簡便」「時短」「即食」をキーワードとした総菜や半調理品を強化していきます。ECへの対抗策としてリアル店舗ならではのメニュー提案ができる売場づくりも今後の課題です。
──東急線沿線の競争環境はいかがですか。
須田 厳しいです。とくに近年は、「オーケー」や「ロピア」のようなディスカウントストア(DS)が積極出店しています。それに対し、DSと同じ価格で戦うのは難しいです。しかし、決して価格から目を背けず、実勢売価と乖離しない価格設定をしたうえで、売場づくりやサービスで差別化を図っていきます。また、新聞購読者の減少によりチラシの効果が減少するなか、ハイ&ローではなくEDLP(エブリデー・ロー・プライス)の価格戦略を実践しています。
エキスパートを集めた精肉の新たなPCを稼働
──20年春、神奈川県川崎市に1日11万パックの加工が可能な精肉のプロセスセンター(PC)を稼働予定です。
須田 新しいPCでは、精肉部門のエキスパートを集めて、アウトパックでありながら高品質な商品を供給できる体制をめざします。まずは新店を含む一部の店舗へ、1日合計1万パックほどの供給からスタートする計画です。
総菜部門でもPCの活用を進めます。東扇島(神奈川県川崎市)にある米飯のPCのほか、長原(東京都大田区)や、田奈(神奈川県横浜市)、碑文谷(東京都目黒区)などにある、サテライト型キッチンの機能も拡大する方針です。
──今後、とくに力を入れて投資していく分野は何でしょうか?
須田 キャッシュレスへの対応です。これは若年層獲得にもつながると考えます。
その一環として6月から、スマホ決済サービス「PayPay」を一部店舗に導入しました。効果があれば全店に導入していく方針です。
電鉄系の食品スーパー(SM)である当社は、多くの店が駅前に立地しているため、他社よりも利便性を追求する必要があります。すでにキャッシュレス比率も40%弱と高い水準にあります。世の中の動向をみながら新しい決済手段の導入も検討していきます。
──ネットスーパー事業の現状を教えてください。
須田 間違いなく需要は拡大していますが、物流費の高騰により配送費用の負担が大きくなっているのも事実です。
そこで当社は3月、配送料の値上げに踏み切りました。これにより、一時は売上高が10%ほど減少しましたが、現在は回復傾向にあり、収支も改善できました。
今後は、東急ストアのふだん使いの食品だけでなく、東急百貨店のデパ地下のスイーツも購入できるといった、グループ内のリテール事業会社と連携したサービスを提供することで、他社のネットスーパーとの差別化を図っていきたいと考えています。
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積極的な今後の出店戦略!
小型店フォーマットが好調グループ外からの出店要請も
──今後の新規出店の予定はいかがですか。
須田 20年2月期は4月に「武蔵小杉店」(神奈川県川崎市)を開店したほか、11月には東急グループが東急田園都市線「南町田」駅前で開業予定の大型商業施設「グランべリーパーク」(東京都町田市)内にも新店をオープンします。
今後さらに新規出店を強化する計画で、21年2月期までに東急線沿線を中心に7店舗の出店を検討しています。そのうち半数は都市部立地で総菜と生鮮食品を強化する小型フォーマット「フードステーション」としてオープンする見込みです。
──その「フードステーション」の状況はいかがですか?
須田 これまで5店舗出店していますが、いずれの店も売上が好調に推移しています。売場面積100坪以下でも、ローコストオペレーションにより店舗運営ができるモデルを確立できたと思っています。
出店競争の激しい首都圏では、売場面積300坪を確保できる物件はなかなかありません。そうしたなか、今後は都心やオフィス街ではない住宅地での「フードステーション」の出店にも挑戦する方針で、すでに候補となる物件も挙がってきています。
──18年9月には、東急グループが開業した大規模複合施設「渋谷ストリーム」に、バイオーダー商品の販売にもチャレンジした新フォーマット「プレッセ シブヤデリマーケット」(以下、デリマーケット)を開業しました。
須田 改善の余地はありますが、手ごたえを感じています。さらに「渋谷ストリーム」上層階のオフィスの開業や、渋谷エリアの再開発が進むのに合わせて売上が伸びる計画です。
また、有り難いことにデリマーケットを見た、東急グループ以外のデベロッパー企業から、東京23区内での出店のオファーを複数いただいています。今後、新たな出店機会を拡大できるフォーマットとして育成していきたいと考えています。
──独自商品の開発については、どのような方針を掲げていますか。
須田 プライベートブランド(PB)商品については、開発・販売を強化していく方針です。現在は私鉄系SMで構成する八社会(東京都)の価格訴求型PB「Vマークバリュープラス」と、当社の価値訴求型PB「Tokyu Store Plus」の2種類を扱っています。売上高構成比は全体の13.6%(19年5月現在)で、これを早急に15%まで高める目標です。
また、関西で店舗展開する、同じく電鉄系SMの阪急オアシス(大阪府/並松誠社長)さんが開発した商品の取り扱いも始めています。同社のバイヤーの商品調達のレベルは非常に高く、そのノウハウを学ぶべく18年から菓子バイヤーを出向させており、最近では共同による商品開発も行うようになっています。
──最後に、東急ストアの中長期的な成長戦略を教えてください。
須田 まずは東急線沿線のドミナントを固めていきます。現段階では、全体で約100ある東急線の駅の半分にも出店できていません。将来的にはすべての駅に当社の店舗をオープンすることをめざしています。
企業として売上高や店舗数を増やしていくことはもちろんですが、成長の先にあるビジョンとして、東急グループが掲げる「日本一住みたい沿線」に、リテールの中核事業会社として貢献することが重要だと思っています。