ライフがアマゾンとタッグ――。衝撃的なニュースが業界を駆け巡った。ライフコーポレーション(大阪府/岩崎高治社長:以下、ライフ)が、アマゾンジャパン(東京都/ジャスパー・チャン社長)と宅配で協業するというのだ。国内の食品スーパー企業はこれまで、アマゾンとは一定の距離を保って事業を展開してきた。ここにきて、最大手がアマゾンに接近するねらいは――。
予想外のタッグに株式市場は好反応
ライフは5月30日、アマゾンの会員向け即日配送サービス「Prime Now(プライムナウ)」に出店すると発表した。プライムナウといえば、食品から日用品、化粧品といったさまざまな商品を最短2時間で自宅まで届けるサービス。これにライフが出店し、総菜や生鮮食品、プライベートブランド商品といったライフの取り扱い商品がプライムナウ上で買えるようになる。
すでにプライムナウには、「ココカラファイン」「マツモトキヨシ」「日本橋三越本店」など大手小売が出店しているが、食品スーパー企業の参入は国内では初となる。ライフは首都圏・近畿圏に270店舗(2019年2月期末時点)を展開しており、プライムナウでの商品販売は東京都内の一部地域で、今年中に開始する。以降、対象店舗を拡大していく計画だ。
この報道を受け、株式市場も反応した。発表翌日の30日のライフ株価の終値は2331円と、発表前の29日終値(2126円)と比較すると9.6%上昇。本稿執筆時点(6月1日10時50分)でも2301円で推移しており、市場では好意的に受け止められているようだ。
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国内食品スーパー業界でも日増しに大きく聞こえてきた、アマゾンの足音!
ライフの総菜が2時間で配送可能に!?
ライフでは、すでに自社ネットスーパーを展開している。商品のピッキングや梱包は店舗のスタッフがこなし、専用配送員がお客の自宅まで配送する仕組みで、売上も店舗につく仕組みだ。
プライムナウでの配送もこれに近いオペレーションになるとしており、ライフの店舗スタッフが店内で集めた商品をアマゾンの専任配送員に渡し、お客の自宅まで配送する。1回当たりの配送料は未定だという。
自社ネットスーパーの取り扱いアイテム数は、店舗によって異なるものの最大で8000アイテムほど。プライムナウでどれだけの商品を展開するかは未定としているが、アマゾン側から見れば生鮮食品の品揃えが大幅に増えるのは間違いない。
アマゾンと協業について、ライフの広報は「自社ネットスーパーはご好評をいただいており、一部店舗では配送枠が埋まってしまい、注文を受けきれていない。アマゾンさんと協業することで、配送力が強化されることを期待したい」と話す。ただ、店内で商品を集める作業は自社で行うので、商品ピックアップのための人員体制を強化する必要がある。そのため、サービス開始に向け、採用を強化する方針も示している。
プライムナウでの配送ということで、今回のサービスが実現すれば、お客はライフの店頭に並ぶ総菜を最短2時間で自宅まで届けさせることができるようになる。タイミングによっては、出来たてに近い商品を配送することも可能になるかもしれない。
だが、現行のネットスーパーにおいても、「総菜などのメニューは、材料がすでになくなってしまったなどの理由から、注文を受けてからお断りの連絡をすることもある」(ライフ広報)としており、プライムナウ開始に際しては、製造のオペレーションにも工夫が必要になりそうだ。
さて、ライフは2019年2月期決算で営業収益6986億円を稼ぎ出し、首都圏のスーパー連合、ユナイテッド・スーパーマーケットホールディングス(東京都/藤田元宏社長:通称、U.S.M.H)を抜いて食品スーパー企業の売上高トップに返り咲いている。国内スーパー最大手がアマゾンと接近となれば、追随するリージョナルチェーンが現れる可能性はゼロではない。そのまた先には資本提携、M&Aの可能性すらあるかもしれない。
米国では、ホールフーズ・マーケットを買収し、一気にリアル小売での存在感を強めたアマゾン。国内の食品スーパー業界にもアマゾンの足音が聞こえてきた。