第2回 毎日現場に口出しし、権限委譲できなかった社長の末路と教訓
5回連続で、部下を次々と潰す上司を具体的な事例をもとに紹介したい。いずれも、私が信用金庫に勤務していた頃や退職後に籍を置く税理士事務所で、クライアントである小売業や外食、サービス企業で見聞きしたものである。取引先の会社であるので、特定できないように一部を加工した。事例の後に、そこから導くことができる教訓を取り上げた。今回は、経営者として極めて優れたものを持ちながらも、それに気がつくことなく、従業員と争い、ついには「復讐」を受けてしまった男性を紹介したい。読者の皆さんは、この事例から何を感じるだろうか。
第2回の舞台:料理店
都内のフランス料理店。店舗数は2。正社員は5人程で、アルバイトなどが約20人。
結婚式の予約を見はからい、“集団失そう”
「あのときは、家内と徹夜だったのかな。高校生の息子も手伝ってくれて…。あんな仕打ちってないよ。許せない」
2007年12月、都内の喫茶店で、2軒のフランス料理店を創業者として営む社長(51歳)が私の前で興奮しながら話した。
本人が話す限りでは、2004年のある日、突然、コック長や料理人3人が姿を消した。辞表すらなかったようだ。その時点で、料理人は1人もいない。2日後には、結婚式の2次会の予約が入っていた。
社長は家族の力を借りて、危機を乗り越えた。2日間、一睡もすることなく、参加者約40人分の料理をつくったのだ。社長は30歳前後までフランス料理店で働くコックだった。妻もまた、料理の専門学校を卒業し、盛り付けなどの多少の経験があったのだ。
「失踪したコック長たちは、結婚式の予約のあえて2日前に行方をくらましたんだろうよ。俺へのあてつけのはず。ふざけるなって…」
“失踪事件”よりも2年ほど前から、社長はコック長と摩擦を繰り返していた。店のメニューや料理の仕方、食材にしつこく注文をつけた。社長は「経営者として当たり前のリクエストをしていた」と振り返る。
コック長は当時、50代前半。社長よりは、料理の経験ははるかに豊富だった。しかも、前職は業界では有名なフランス料理店の店長。そんな人材を引き抜いてきたのに、社長はほぼ毎日「リクエスト」と称して指示を出し、かきまわしたのだ。コック長が言い返すと、厨房全体に響くような声で叱責をした。コック長がつれてきた3人の料理人にも、「リクエスト」を繰り返し、言い争うことがあった。
2011年、この店は消えた。社長が病死したのだという。1軒目は、09年に閉店となっていた。
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今回の問題点と解決策!