2019年3月、岡田尚也氏がオーガニック専門スーパーのビオセボン・ジャポン(東京都)の代表取締役社長に就任した。岡田尚也氏は、イオン(千葉県)の岡田元也社長兼CEOの長男。注目を集める若手経営者の1人だ。35歳の岡田社長は、設立して丸3年を迎えようとしているビオセボン・ジャポンをどのように舵取りしていこうとしているのか──。
重要なのは「価値を伝える」こと
──社長就任の所信からお願いします。
岡田 ビオセボン・ジャポンには立ち上げのときから関わっており、1号店では店長も兼任しました。そういう経緯もあるので、今回社長に就任したことで、これまでと大きく変わるということはありません。各メンバーとともに取り組んできたことを継続的にやっていくだけです。
それに、私自身も店頭に立ってきました。お客さまのニーズを把握するには、会話することがなによりも重要です。お客さまがどのような商品を求めているのか。どういうものがあったら便利なのか。どういう店舗であれば日常的に使っていただけるのか。そういったことがわかるのはすべてお店の中ですので、店頭での会話を含めて、今までと変わらずやっていく考えです。
──これまでさまざまな商圏で店舗を展開してきました。どのような手応えを感じていますか。
岡田 この事業を立ち上げた当初から、簡単な事業ではないということはフランスのビオセボン社も含めて認識していました。店をオープンして10店舗目、当初と比べて何か大きな違いがあったとは思っていません。
ただ、お客さまの求めるところについては、少しずつ見えてきたという手応えもあります。それは日常的に買えるものです。もちろん価格という側面もありますが、一番重要なのは価値が伝わることです。価値が伝われば、お客さまに「購入してみたい」と思っていただけます。これが基本的な考え方です。
もう1つ大事なのは、高い頻度で消費するものを、どれだけオーガニックで品揃えできるかということ。ここをとにかく突き詰めていきます。
“フェーズ0″から“フェーズ1″へ
──今、会社はどのようなステージにあるとお考えでしょうか。
岡田 1号店の「麻布十番店」(東京都港区)の開店が2016年12月。年度ベースでいうと、3年目に突入しました。いろいろな試みをしていくなかで、どのような商品・サービスが便利なのか、支持をいただけるのかと模索してきたステージでした。そういう意味で、これまでのビオセボン・ジャポンは“フェーズ0″だったと言えます。
そこから19年度は、“フェーズ1″として非常に重要な段階になると考えています。店舗展開が進み、19年3月20日の「小田急藤沢店」(神奈川県藤沢市)のオープンで10店舗目、店舗数が2ケタになりました。これくらいの規模になると、生産者さまやサプライヤーさまともいろいろな取り組みができるようになります。たとえば、今までになかったアングルからの商品開発ができるようになりますし、輸入商品の幅も広がります。
そういった今までは実現が難しかったことをかたちに変え、お客さまにとってよりよい店になるための大事なステージにあると思っています。
──その“フェーズ1”における出店戦略の位置づけについて教えてください。
岡田 基本的に、出店はお客さまあってのことです。お客さまにとって便利な店であるために重要なのは立地、そして店舗のサイズです。
フランスのビオセボンは、売場面積80~100坪超の路面店を基本フォーマットとしています。一方で、日本では「麻布十番店」(売場面積約130坪)を旗艦店とし、これまで60~80坪の店舗を展開してきました。18年11月には、30坪ほどの「東武池袋店」(東京都豊島区)を東武百貨店内に出店しました。また、「小田急藤沢店」も商業施設内への出店です。これはフランスのビオセボンでは行っていない取り組みです。
重要なのは、どのような場所にビオセボンがあると使いやすいのか、商品を手に取りやすいのかということです。そういう観点から考えると、出店戦略は今までとは大きく変わりませんが、立地やフォーマットは柔軟に検討していく必要があると思っています。
──出店ペースは昨年度よりも上げていくのでしょうか。
岡田 昨年度は8店舗を出店しました。店舗数が増えていけば、当然お客さまの利便性が改善されますので継続していきますが、申し上げたとおりフォーマットの柔軟性も求められます。基本的に出店は東京都と神奈川県で、出店数は昨年度がベースとなりますが、数にとらわれるのではなく、どういう場所に店舗が求められているのかをしっかり検討し、アプローチをしていきます。
──商品開発の体制を教えてください。
岡田 7、8人のメンバーで商品開発をしています。現在、力を入れているのは加工食品で、なかでも国内の生産者がつくるものにフォーカスしています。当社では「国内グロサリー」とカテゴライズしていますが、売上高は対前年度比130%近くと頭一つ抜けて伸長しています。ですので、当社としてもここの品揃えを昨年後半から強化しており、今後も新商品を開発していきます。
おそらく春頃にはスイーツの新商品も投入できるかと思います。こうしたラインアップも増やしていく計画です。
──オーガニックのスイーツとはどのようなものなのでしょうか。
岡田 コンビニで一番売れているスイーツをご存じでしょうか。
──シュークリームでしょうか。
岡田 そうです。そういう観点で、日常的に手に取る商品でビオセボンに欠落しているものを開発していきます。そういうものを一つひとつ開発していければ、お客さまも気軽に買物ができるものだと思っています。
──デイリーユースのスーパーマーケットとして磨き込んでいくということですね。
岡田 もちろんです。スーパーマーケットはデイリーでなければ持続可能性が高まりません。好例が、去年導入したオーガニックのパンです。手に取りやすい価格となるようにサプライヤーさまとしっかりと取り組みをしたこともあり、多くの支持をいただけました。このような(購買頻度の高い)オーガニック商品があれば、来店していただける頻度が高まっていくでしょう。
オンライン販売よりもオフライン店舗に注力
──今後のイオングループとの関係について思い描いていることはありますか。
岡田 それは私が描く立場にはないと思います。ビオセボン・ジャポンとして何がベストなのかを思い描くことが私に課せられた役割だと認識しています。
イオングループさんは強力なインフラやノウハウを持っていますが、あくまでビオセボン・ジャポンにとって何がベストなのか、何がお客さまの支持につながるかということを考えるのが私の役割です。そういう意味では、これまでと変わることはないと思います。
──オンライン販売の展開について教えてください。
岡田 現在、かたちになっているものはありません。今はオフラインの店舗を展開することで、オーガニック商品を日常的に購入できる場所を提供し、お客さまに対して「(オーガニック商品を)試してみよう」「買ってみよう」という機会を増やすことが重要と考えています。
お客さまからしてみれば、商品がどのチャネルで手に入るかはそこまで重要ではないと思います。購入できるのが、オンラインであれオフラインであれ、便利なかたちで手に入るのがお客さまにとってのメリットになります。そうしたなかで、現状はオフラインの店舗を充実させることに注力しているという段階です。
──それはECの優先順位がそれほど高くないということでしょうか。
岡田 そうではありません。買物はオフライン・オンラインで分けるものではない、というのが私の考えです。(オンラインに)注力しないというのではなく、そこに線引きがあまりない。ただ現状、会社としては、オフラインの店舗を充実させることにリソースを割いていくということです。オンラインは買物の手段の1つとして検討していきます。