首都圏に食品スーパー(SM)を展開するエコス(東京都/平邦雄社長)。子会社にたいらや(栃木県/村上篤三郎社長)とマスダ(茨城県/髙野國男(たかの・くにお)社長)のSM2社を抱える。東日本大震災ではエコスグループの店舗も多く被災した。しかし、本部から、地域のライフラインとして早期の営業再開を指示する一方、従業員も自らの判断で迅速に営業を再開してお客からの信頼を獲得。現在の好業績につながったという。2013年2月期からは中期経営3カ年計画をスタートし、企業規模拡大に乗り出す。平社長に聞いた。
震災時の迅速な対応でお客からの信頼を獲得
──2011年3月11日に発生した東日本大震災では、エコスグループの店舗や物流センターも被災し、復旧するまでにとても苦労されたと聞いています。
平 邦雄 たいら・くにお
1968年生まれ。91年、早稲田大学商学部卒業。同年、ダイエー入社。94年、たいらや(現:エコス)入社、取締役。99年、ナショナル・ユニバーシティ経営大学院修了(MBA取得)、同年、常務取締役。2002年、営業本部長。04年、専務取締役。05年、副社長。06年、代表取締役社長就任。
平 そうですね。被災した店舗の状況を自分の目で確認するまでは「倒産することになるのかもしれない」という思いが常に頭の中にありました。
震災では、福島県や茨城県、栃木県に展開するエコスグループの店舗も多く被災しましたが、いち早く復旧できたのは、すべて従業員の頑張りがあったからだと思います。
震災発生当日は、エコス本部の近くにある「エコス築地店」(東京都昭島市)の改装オープンがあり、私やバイヤーたちは店舗につめていました。あわせて、11年5月に開業する「マスダ湖北店」(千葉県我孫子市)の店舗工事の打合せがあった関係で、店舗開発部隊や施工業者さんが茨城県取手市にあるマスダの本部にいました。震災当日、幹部やバイヤー、建築担当者が本部のすぐ近くにいたことが迅速な対応につながりました。
3月11日夜には対応策を決め、本部にいる従業員がお取引先さまや被災した店舗、茨城県桜川市にある物流センターにそれぞれ出発しています。私は12日から茨城県に入り、被災店舗の状況を1店舗ずつ回って確認しました。
被災した店舗は、震災翌日から従業員が自ら判断し、店頭販売を含めて営業を再開しました。自宅が半壊したり、津波によって家屋に被害のあった従業員も多くいます。被災者であるにもかかわらず、地域の食のインフラを守るためにと、従業員が一丸となって営業を継続したのです。
──12年2月期第3四半期連結業績を見ると、売上高は対前期比0.9%増の808億円、営業利益は同4倍超となる8億5400万円と好調に推移しています。
平 従業員の震災時の頑張りがお客さまに評価をいただいているからだと考えています。
ただし、10年2月期と11年2月期の業績があまりにも芳しくなかったので、「前年実績を上回ったことは当然」と見ることもできます。業績不振のすべての責任は社長である私にありますが、ここにきて、業績回復に向けて打った施策の効果が表れ始めていると手ごたえを感じています。
価格とMDを見直して売上と利益を伸ばす
──具体的には、どのような手を打ったのですか?
平 まず1つは、価格政策の大幅な変更です。
わが国には、年間収入400万円以下の世帯が45%以上、個人では年間収入200万円以下の消費者が2000万人以上いると言われています。可処分所得は長年減少傾向にあるため、商品の低価格化は避けられません。
にもかかわらず、エコスグループのグロサリーは、コンビニエンスストアよりも売価の高い商品がいくつもありました。それではお客さまからご支持いただくことができないのは明白です。
そこで当社が取り組んだのは、生鮮食品や総菜以外のグロサリーについて、エブリデイ・ロー・プライス(EDLP:毎日低価格)で販売することです。当社のEDLPは「地域の実勢売価に合わせる」ことです。EDLPの原資は、発注精度の向上と適正な在庫管理、そして店内作業を含めたローコストオペレーションの徹底により捻出しました。
2つめは、商品政策(MD)の見直しと売場の標準化です。
生鮮食品に限らず、これは当たり前のことですが、良質な商品をお客さまに提供するよう努めています。最近は単品の商品力が改善しつつあると感じています。
店舗運営面に関しては、スーパーバイザーのような役割を担うトレーナーが数店舗をまとめて見る「エリア制」を敷いて、各店舗の売場の標準化を推進しているところです。結果として、売上や粗利益高、販売管理費が改善しています。
たとえば鮮魚部門では、売上が対前年比で10%伸びた店舗もあります。マグロやお造り、塩干魚、魚卵などの商品力が引き上げられ、売場に商品を出すタイミングや陳列する数量が最適化されつつあることが改善につながっているのだと思います。
やや停滞していた青果も、12年2月期は売上、粗利益高ともに順調に推移しています。精肉は一部の店舗で高品質の商品導入を開始するなど、引き続き利益貢献度の高い部門となるように改善を加えています。
──中でも総菜は最も力を入れている部門の1つです。
平 そのとおりです。しかし、現状は、販売計画や製造計画、店舗の作業計画がうまくリンクしておらず、売上は一般的なSMに比べるとまだまだ低いと言わざるを得ません。06年10月から稼働した「エコスグループ川越惣菜工場」(埼玉県)によって製造計画や店舗での作業計画が立てやすくなりましたが、改善すべき点は多くあります。
たとえば積極的に総菜を売り込もうという姿勢も店舗によってまちまちです。
今年の節分は、積極的な販売目標を設定し、製造計画や店舗の作業計画をしっかりと立てました。総菜部門のパートさんのシフトもきめ細かく組んで、機動的な販売ができるようにしました。このように体制を整えて、恵方巻やお寿司を売り込んだところ、部門全体の売上が前年の30%増を記録しました。
しかし喜んでばかりはいられません。売上が30%も伸びたということは、これまでは、あまり積極的にチャレンジしてこなかったからだと言えるからです。総菜部門に限ったことではありませんが、売上を改善できる余地はまだまだ残されていると思います。13年2月期は店舗の総菜部門の稼働計画を確立し、積極的なMDを仕掛けていくことを計画しています。
──着々と改善が進んでいるようですね。ほかにMD面の課題はありますか。
平 「地域密着」の商品をどれだけ品揃えできるかが課題です。
たとえば、福島県の店舗を11年10月に改装しましたが、売上が改装前と比べて大幅に伸びました。生鮮食品や日配品、酒類など、地元商品を多く導入し、「地域密着」を徹底した結果です。
「地域密着」とは何かと言えば、そのエリアで支持されている商品を品揃えするということです。地域のお客さまが求めている商品をしっかり導入できるようにすること。これが当面の課題です。
──これまでも「地域密着」に取り組んできたのではないのですか?
平 そうですが、まだまだ不十分だということです。地域のことをいちばん理解している店舗からの要望に、商品部や営業本部が対応できていない部分がまだまだ多くあります。今後、これは改善しなければなりません。
当社の場合、競合店と戦う以前に、内部で改善・改革できる部分がまだまだ残されていると考えています。それを売上と利益に変えていきたい。
新規出店とM&Aで成長! 中高年の需要を深掘り
──13年2月期を初年度とする中期経営3カ年計画(以下、中計)を策定しました。
平 はい。計画最終年である15年2月期にグループ連結で売上高1200億円、エコス単体で売上高800億円、売上高経常利益率3%を達成することが目標です。
──エコスグループの11年2月期の連結売上高は1068億円、エコス単体の売上高は686億円なので、相当ハードルの高い目標です。
平 そうなります。食品小売業界は年々競争環境が厳しさを増し、既存店の売上を大きく伸ばすことができる時代ではありません。したがって企業規模を大きくするためには、新規出店することとM&A(合併・買収)を平行して進めるべきだと考えています。
当社は現状の商勢圏を拡大することは考えていません。福島、茨城、栃木、埼玉、東京、千葉、神奈川という1都6県の商勢圏内の店舗密度を高めつつ、需要を深掘りしていきます。
新規出店に関しては、売場面積300坪と600~700坪の2つのサイズを想定しています。都心部であれば売場面積が150坪程度でも新規に出店したいと考えています。スクラップ&ビルド(S&B)が遅れていますので、13年2月期以降、毎年リプレイスを含めて3~6店舗を新規出店し、不振店を1~2店舗ずつ閉める計画です。
──M&Aも視野に入っている。
平 はい。たとえば首都圏には営業譲渡を模索している企業が多いと聞いています。そういった企業とうまく手を結べればと考えています。
エコスグループは現在102店舗を展開していますが、そのうちの大半はM&Aやほかの企業から譲り受けた店舗です。M&Aに関してはいいお話があれば前向きに検討したいと考えています。
──需要の深掘りに関してはどのような施策を考えていますか?
平 中高年向けの売場づくりです。12年からは団塊の世代(1947年から49年の間に生まれた世代)が65歳を迎え、高齢者の消費ボリュームが大きくなります。
当社の顧客の6割以上は50歳より上の中高年層になります。
高齢者をターゲットにした当社の店舗は、比較的売場面積が小さく、限られた商圏内で商売をしています。小商圏ということは、お客さまのすぐ近くに店舗があるということですので、お客さまのニーズに応えることができる商品をしっかり品揃えすれば、需要を深掘りすることができると考えられます。
具体的には「少量」「簡便」「即食」「健康」をキーワードにした商品を増やしています。たとえば鮮魚では、刺身の個食パックに注力していますし、骨取り魚や焼き魚、煮魚などの半調理品や調理加工済み商品の販売に力を入れていきます。精肉では低脂肪肉のコーナーを一部の店舗に展開していますし、グロサリーも「減塩」「無添加」など健康に配慮した商品を増やしていきます。まずは1品1品の商品について、商圏の需要に沿うようしっかり品揃えしたいと考えています。
──そういった商品はどのような方法で中高年層にアピールするのですか?
平 成分表示が中心になります。すでに総菜の一部の商品では、カロリーや塩分量などの表示をスタートしています。グロサリーでも塩分が比較的多い即席めんや味噌などのプライスカードには成分を表示しています。
──高齢者向けには宅配の「ふれあいハート便」サービスも提供しています。
平 はい。現在、奈良橋店(東京都東大和市)で実験を行っています。妊婦や高齢者の方が対象で、2100円以上の買物で店舗の従業員が無料で宅配するサービスです。今後、ほかの店舗でも実施できないか検討を進めていきます。
──最後に、中計の目標達成に向けて意気込みを聞かせてください。
平 目標達成のためには、従業員のレベルアップが不可欠です。
当社は12年2月期を「教育元年」と位置づけ、来期からの中計でも引き続き人材教育に力を入れます。12年2月期はバイヤーの勉強会が中心でしたが、13年2月期からはエリアごとに店長の勉強会も行う予定です。中計の数値目標は高いハードルではありますが、従業員には「われわれは震災という大きな壁を乗り越えることができたのだから、きっと中計の目標も達成できるはずだ」といつも言っています。
中計では、従業員に「エコスで働いていてよかった」と感じてもらえるよう従業員満足度を高めていくことにも挑戦します。従業員には震災で大きな苦労をかけましたので、今よりも幸せになって欲しいと切に願っています。