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コロナ禍でも堅調なアルペンが取り組む、業界初の接客DXの可能性

スポーツアパレルチェーンのアルペン(愛知県/水野敦之社長)の2022年6月期第2四半期(2021年7月1日~2021年12月31日)の決算が先ごろ発表された。連結売上高は対前年同期比6.3%減の1129億円、営業利益は同46.7%減の59億1500万円、経常利益は同43.0%減の68億5500万円、親会社株主に帰属する四半期純利益は同44.7%減の43億3300万円だった。

写真はアルペンアウトドアーズ

堅調を下支えしたのはEC

 アルペンの今回の業績は、コロナ禍が長引くなかでは堅調な数字といえるが、天候不順などの影響もあり、思うような結果は得られなかった。そうしたなかで落ち込みをカバーしたのがECだ。

 ほとんどのセグメントで売上減となるなか、唯一増大となったのが「ゴルフ」で、同1.4%増の454億6600万円だった。プレーヤーのすそ野が広がり、好調をキープし続けているが、その販売を後押ししたのはECだった。

 同社は「コロナ禍をきっかけにプレー人口は増加し、好調な市場環境は継続しているが、クラブの新製品発売が前年よりも少なかったことから、既存店売上高は前年水準には届かない結果となった」としながらも、「ECにおけるクラブの販売が順調に拡大しているため、ゴルフの全社売上は前年を上回っている」と説明し、ECがゴルフ部門の売上をけん引したことを認めている。

 単にショッピングのEC化の潮流だけが要因ではない。同社は、新しい生活様式や消費行動にいち早く対応すべく、ここ数年はECサイトにおけるサービス拡充や利便性の向上、自社ポイントプログラムの会員数拡大、デジタルマーケティングの強化などを積極的に展開しており、ECの売上増はその成果といっていいだろう。

スポーツ用品小売業界で初のスタッフDX化サービスを導入

 アルペンは、スタッフをDX化するアプリケーションサービス「STAFF START」を導入している。これは、スポーツ用品小売業界で初めての試みだ。

アルペンは店舗スタッフをDX化する「STAFF START」を導入

 同サービスは、バニッシュ・スタンダード(東京都/小野里寧晃CEO)が提供する、店舗に所属するスタッフをDX化し、自社ECサイトやSNS上でのオンライン接客を可能にするサービス。スタッフのDX化とはつまり、スタッフの接客をデジタルツールの活用により、オンラインで提供することだ。

 たとえば、アパレル企業でもよく利用されている「コーディネート投稿機能」は、店舗スタッフが撮影したコーディネート画像に商品情報などを紐づけ、ECサイトやSNSに投稿する機能。投稿を通じて商品紹介やコーディネート提案といった接客を行うことができる。

 ファッションアパレルと異なり、スポーツ用品は、スポーツ特有の激しい動作に順応し、汗をかいても快適に過ごせる高い機能性、何度も繰り返し使用できる耐久性を有しており、商品選びに専門知識が必要となる。結果として、顧客は商品選びのための情報収集に多くの時間を要することになる。

 その点で、スタッフのDX化による「リモート接客」は、リアル店舗でしか受けられなかった専門知識を有する店舗従業員の代替として有益であり、より気軽にショッピングを楽しめるため、高い販促効果が期待できる。

「テクノロジー+接客」の理想形とは

 アルペンのDX戦略には、その実効性を高める施策も盛り込まれている。スタッフの投稿を通じて達成されたECでの売上は可視化され、スタッフ個人や所属する店舗の実績として評価に反映されるのだ。頑張ったスタッフが公正に評価されることでモチベーションが高まり、さらなる売上アップにつながる相乗効果も期待される。

 アルペンはデジタル化を引き続き強化する方針で、肝となる物流部門にも積極的に投資する。EC物流拠点には自動搬送ロボットを導入し、現在までに国内で最多の216台が稼働している。

 接客がベースとなる小売業にとって、デジタル化は顧客との距離が離れる施策であり、対局のようにも思える。だが、たとえばAIを活用し、天候やトレンドなどを予測することで、ロスを最小化できる。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を活用することで、リアル以上の接客を実現できる可能性もある。

 最新のテクノロジーは活用の仕方次第で現状を飛躍的に変えるポテンシャルを秘めている。アルペンは「スポーツをもっと身近に」を掲げる。この方針がぶれない限り、顧客にとってデジタル化でマイナスになる施策は生まれようがないだろう。コロナ禍に積極的にチャレンジを続ける同社が、今後どんな進化を遂げるのか目が離せない。