尾行販売
25年ほど前の百貨店の衣料品売場は、売り手にとって過酷な戦場だった。
5~6ブランドで構成される20坪ほどの平場には、メーカーから派遣されたマネキンやアルバイト、契約社員や社員などの販売員がいる。その数はピーク時には10人ほど。
お客さんが、通路と売場の境界線を越え、平場に足を踏み入れたところから、接客がスタート。10人の販売員は、あらかじめ声掛けする順番が決められており、各々が売場のオリジナルルールに則り、自分の派遣元メーカーの商品を買ってもらうように口八丁手八丁、お客さんを誘導する。
平場に入ると、お客さんは、特定の販売員の監視下に入るとともに、他の9人は声を掛けてはならない不文律がある。お客さんが平場から境界線を越え離れた場合は、また中立となり、再度入ってきた場合は、順番が来た販売員が声掛けする。
これが“尾行販売”である。
お客さんが平場を離れるまで、販売員は、ひたすら後ろに付く。
私も前職の新人のころは、かき入れ時の応援販売員としてよくやらされたものだ。
お客さんが明らかに嫌がっているのは、分かっているのだけれども、やらなければ売上がつくれないので、しつこくくっつく。
逆の立場から見れば、販売員もつらいところなのである。
結局、その仕組みは百貨店凋落の遠因のひとつになっていった。
さて、現在、食品スーパーマーケットには、グリーダーを用意して、接客に力を注ぐ動きが大きくなってきた。
アメリカでは一般的とはいえ、こうした新しい取組は、業態の活性化に向けても大歓迎である。
けれども、お客さんの立場で言えば、欲しいのは、困った時にだけ声を掛けてくれる「(お客さんにとって)都合の良い店員さん」だ。
担当者に指名され、接客に力を入れたくなるのは分かるのだけれども、やり過ぎにはご用心である。
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