個人店ができないことで、大手がやりきれていないこと
「お皿の上だけで考えない」。
「塚田農場」「わが家」など、全国に141店舗を展開し、114億円(2013年3月期)の売上を計上する居酒屋チェーン、エー・ピー カンパニー(東京都)の米山久社長は、常にこのことを胸に刻みながら、経営に当たってきた。
「僕らの商売は、他社との違いを見つけて、それを形にすること。ところが飲食業の99%の店舗は、商品開発担当者や料理人がお皿の上だけで自分の作品づくりに専念している。仕入れ先を代えるわけでもなく、お皿の上だけで考えているから、多くの店舗が同質化してしまう」。
2001年の創業以来、お客に刺さるような提案は何か、お客に喜んでもらうためにはどうしたらいいか、ばかりを考えてきた。
行きついたのは、《お皿の上までのストーリー》だったという。
「小売業や飲食業は、安さばかりに終始して、原材料の生産者が誰であり、何処に住み、どんな思いを持っているのか、をお客様に伝えきっていない。しかし、そうしたストーリーをきちんと伝えることができれば、他社よりも多少は高くても支持を得ることができる」と確信していた。
その考え方を具現化すべく、みやざき地頭鶏の生産農家との契約に奔走。現在は、自社養鶏場と13の契約農家から直接購入している。それにより6000円~8000円が当たり前だった地鶏専門店の客単価を3800円に引き下げることに成功した。
その後も東京中央卸売市場(芝浦)やJA食肉かごしま(鹿児島県)と直接取引を開始して食肉の垂直統合に乗り出した。
さらには、日向灘と豊後水道がぶつかる「島野浦」の漁師と契約。「今朝どれ」の鮮魚を空輸してその日のうちに料理としてテーブルに載せるという革新的な取り組みをスタートさせている。また、2011年には自社の漁船「第四十八栄飛丸」が操業を開始した。
生産地を飲食店と直結させる垂直統合型の居酒屋チェーンが誕生したのだ。
「どこかの店がヒットするとそこに行って、ノウハウや仕組みをマネする飲食業者は少なくない。でも、僕はひねくれ者だから、他社と同じことはしたくなかった。僕らが着目したのは個人店ができないことで、大手がやりきれていないこと――」。
業界の中のニッチを見つけて、新しいことに取り組んできた。
いち早く2次産業(製造業)、1次産業(農産、水産、畜産)を経験した人間を採用して、経営に当たったことも大きかった。
「人間は、自分が見える範囲を常識だと決め付けてしまいがちだ。たとえば、3次産業の中にいると、同業他社ばかりをベンチマークしてしまう。その結果、お皿の上の限られたスペース内で商品の開発に専念することが飲食業の企業努力と勘違いすることになる。《お皿の上までのストーリー》は、2次産業や1次産業の仕事であり、僕らの役割ではないと考えてしまうのだ。その時点で自社の常識を決めてしまっているから、飲食産業内で答えを探すようになる」。
さて、米山社長の視点は「飽和状態で限界にある23兆円の外食マーケット」にはなく、97兆円と言われる全小売市場に向いている。
「これだけ巨大な規模を持っているマーケットなのだから、まだまだ仕掛け用はある」と米山社長は力を込めた。
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