《片思い》と「ストーカー」
成就ということもあると思うけれども、恋愛の楽しさは必ずしもそれだけではない。
《片思い》も楽しいし、サヨナラを告げられた別離というのも後から振り返ってみれば、それほど悪くない印象として刻み込まれているものだ。
この年齢になってしまうと、さすがになくなってしまったが、《片思い》は、恋愛カテゴリーの中では、王者中の王者ともいうべき存在だと思う。
「文化や芸術といったものが不倫から生まれることもある」と言ったのは、俳優の石田純一さん。私に言わせれば、《片思い》こそ、文化や芸術と直結しているような気がする。
たとえば、思いつくままに、ヒット曲を挙げていっても、『まちぶせ』(1981:石川ひとみ)、『待つわ』(1982:あみん)、『初恋』(1983:村下孝蔵)、『ミ・アモーレ』(1985:中森明菜)、『恋心』(1992:B’z)、『告白』(2008:FUNKY MONKEY BABYS)、『見つめていたい』(2009:flumpool)といった具合に、新旧を問わず、時代を超え、《片思い》をモチーフにつくられた楽曲は少なくない。
言い出せずに相手をただただ思い、見守るしかない。やり場のない感情を胸に貯め続ける。結ばれることも、結ばれないこともある――。
《片思い》は、本当に楽しく、素晴らしいことだと思う。
ところが、「ストーカー」という言葉が日本に上陸して、定着するようになってからは、これがとってもやりにくくなっている。
校庭を走る少女を男子学生がずっと見ているというのは、現代的には「キモイ」と一言で片づけられてしまうからだ。
確かに、急進的な行動がともなった《片思い》は薄気味悪く、そうした一面はないわけではない。
でも、《片思い》を「ストーカー」と同類項で括ることは文化的損失、というスタンスに立ち、もう少し寛容さを持って許してほしいと思うのである。
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