ヒーローの陰では
アンシャンレジーム(旧体制)を壊すことは、とても勇気があるとともに危険なことだ。
既得権を持つ人たちや不利益変更を強いられた人たちの反感を買い、やっかまれ、時にいわれなき攻撃をされることになるからだ。
実際、「暗黒大陸」と称された商業の世界で旧体制を破壊したイノベーターたちは大変な目にあった。
たとえば、1683年。三井高利が「現金安売、無掛値」のキャッチフレーズで越後屋を開業した時には同業者から妬まれ、店先に糞尿を撒かれている。
きっとダイエーやイトーヨーカ堂の創業期にも同じようなことがあったことは想像に難くない。そういう試練は、やがて武勇伝として伝説化されていき、イノベーターたちをさらにヒーロー化していくのだろう。
ただ、イノベーターたちは、ヒーローになり、華やかなスポットライトさえ浴びるようになるのだが、その近くで嫌な思いをしながら無言で彼らを応援していた市井の人たちがいることは誰にも知られない。
実は、友人がたまたま、ある食品スーパー企業の創業者の隣に住んでいる。
中堅の食品スーパーの創業者なのだが、自宅前にはしょっちゅう糞尿がまかれたり、ボヤ騒ぎが起こったりしており、大きな迷惑を被った。
けれども、友人は、彼の仕事に理解を示し、怒鳴り込んだりすることなく、応援していたのだそうだ。
流通革命のヒーローは1人、称賛されるけれども、流れ弾を受け、迷惑を受けた隣人は、どこのメディアも取り上げられることなく、歴史上は何事もなかったかのように忘れ去られているのである。
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