ファーストリテイリング 柳井正会長兼社長 インタビュー③
(昨日の続きです)
私 柳井さんの経営の特徴のひとつとして「言葉を大事にしている」ことが挙げられます。私には「政治と経営は言葉だ」という持論にあるのですが、それをかたくなに実践しています。
柳井 仕事をするのは経営者ではなく社員です。だから言葉として伝えないかぎり、社員はどう動いていいのかわからない。日本の経営者は、何をしたいのかを、もっと言葉として伝えないといけないと思います。
たとえば、ファーストリテイリングは「FAST RETAILING WAY」というグループの企業理念を名刺大のプラスチックカードに印字して全社員に配布しています。
僕は大規模事業に臨むに当たっては、大志とか、経営の原理・原則や価値観や使命について、全員が共有すべきだと考えているからです。
私 私もそうするのが当たり前だと思います。ところが、日本には、言葉でしっかり伝える経営者は、あまりいません。
柳井 そこが日本人の弱いところなのです。日本人は、以心伝心で、ツーカーでわかると勘違いしている。でも、ほんとはわからない。わかったつもりになっていて、その実、考えていることは違うということが非常に多い。だから、われわれの考えはこれだというのを、はっきり示さないといけません。
たとえば、以下がわれわれの服の定義です。
ユニクロの服とは、服装における完成された部品である。
ユニクロの服とは、人それぞれにとってのライフスタイルをつくるための道具である。
ユニクロの服とは、つくり手ではなく着る人の価値観からつくられた服である。
ユニクロの服とは、服そのものに進化をもたらす未来の服である。
ユニクロの服とは、美意識のある超・合理性でできた服である。
ユニクロの服とは、世界中あらゆる人のための服、という意味で究極の服である。
グローバル展開するに当たっては、この英訳版も作成しなければいけませんが、直訳しても通じません。
そこで日本文学者のマイケル・エメリックさんと毎週協議をして、1年間の歳月を費やして、以下のように英訳しました。
Uniqlo is the elements of style.
Uniqlo is a toolbox for living.
Uniqlo is clothes that suit your values.
Uniqlo is how the future dresses.
Uniqlo is beauty in hyperpracticality.
Uniqlo is clothing in the absolute.
これぐらいしないとダメだと思います。そして、英文化することによって、また日本語版も進化していくことを期待しています。
私 それともうひとつ聞いておきたいのは、新しいビジネスを展開していくに当たっては、「理解されない苦しみ」があるのではないかということです。柳井さんが既存のルールを変え、新しいビジネスモデルを創造したゲームチェンジャーだとするならば、既存の経営数値の切り口では評価できないはずです。そこを分かってもらえないもどかしさはありますか?
柳井 理解はできないと思います。たとえば、IR(インベスターリレーション)の対象となるアナリストは、だいたいが数字を見る人です。数字は結果であり、体温を毎日、見ていても、その人間がどういう人間なのか、わからないのと一緒です。
ただ、数字をベースにして身体の変調に警告を発してくれるということに関しては、結果としてはすごくプラスにはなっていると思います
私 ちょっと対前期比で業績が悪いのが続くと《ユニクロ限界説》がすぐに沸き起こってきます。経常利益で1000億円をコンスタントに計上していてもです。
柳井 そういうふうに思われないようにしないといけないということでしょう。また、思われているのであれば、原因を突き詰め、謙虚に反省しないといけません。
私 最後に、「FR Management and Innovation Center」(FRMIC)やユニクロ大学を立ち上げ、従業員教育に努め、人材育成に注力していますが、次世代へのバトンタッチというのは、どんな形で進めていくのですか?
柳井 僕は創業者であり、会長兼社長であり、オールマイティで、1人でやっていますが、今、僕がやっている仕事は、次の世代の人は1人ではできないと思います。だからたぶんチーム経営に移行すると思います。
もちろん代表者は必要なので指名します。けれども、社長のあり方は今、僕がやっているものとは異なる性質のものになっていくはずです。
その中でも社長を決めて、チーム経営に移っていって、僕は会長(=チェアマン)職に専任するという格好のバトンタッチになると思います。
私 柳井さんが指名する方というのは、一番は大志ですか?
柳井 やっぱり企業とか、店とか、ブランドとか、社員に対する思いが強いような人なんじゃないですか。大志がないといけません。
絶対、世界一にはなりたいということを、最後まであきらめない人じゃないといけませんね。
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