販促新時代(下)

2011/12/06 00:00
Pocket

 (昨日の続きです)


 前回、見てきたとおり、日本の食品スーパー業界では、あの手この手を駆使したさまざまな販売促進策が出現し始めた。

 しかし、EDLP(エブリデー・ロー・プライス)の前には、どんな販売促進策も歯が立たないという見方もある。

 米国リテール・ストラテジーセンター社長でFSP(フリークエント・ショッパーズ・プログラム)の大家であるブライアン・ウルフ社長は、「ウォルマート(WALMART)のような低価格を訴求する小売業にはなかなか勝てるものではない」と言う。

 ブライアン氏は、どんなに素晴らしい食品スーパーであっても低価格訴求する大手企業との価格差が広がり過ぎた場合は、敗北を強いられると強調する。そこで最近、ブライアン氏が食品スーパー企業をコンサルティングする際にまず指導するのは、筋肉質の財務体質の実現である。余計なコストを切り詰め、値下げの原資をねん出させ、ウォルマートとの価格差を少しでも縮めるというものだ。

 その上で「マッディング・ウォーター(muddying the water)」と称する作戦に持ち込むのだという。マッディング・ウォーターとは、泥水をかき回し続けているような状態。ウォルマートを“煙に巻く”というようなイメージを想像してもらいたい。

 マッディング・ウォーター作戦の代表格というべき企業がニューヨークにある高級SMのダゴスティーノ(D'Agostino)だ。総アイテム数約2万のうち、買物頻度の高い500アイテムだけの価格を下げ対抗している。500アイテムの特売商品については、FSPのカードにためたポイントでのみ支払うことができる仕組みなので、もとからのダゴスティーノのファンは、他店を買い回りすることなく、家計支出のほとんどを落としてくれるようになる。

 ウォルマートのようにEDLP(エブリデー・ロー・プライス)を実践している企業とカートショッピングの金額を比較すると明らかに大差がついてしまうのだけれども、500アイテムだけを安くすることで、“お客の価格認識”を曖昧にしているのだ。

 日本で同じような作戦を展開するのは、ベルク(埼玉県/原島功社長)だ。毎週火曜日、水曜日に「99円均一」を打ち出し、全店舗が一丸となって、99円均一セールを実施している。メーンの入り口には、トップボードに大きく「99円均一」と記して、お客に告知する。
 

 同社の強みは、本部の指示を徹底的に具体化できる実行レベルの高さだ。店舗が一丸となって「99円均一」を実施しているから、お客はどこの売場でも、本部の思惑通り、視野に99円の文字が入ってくる。それが刷り込み効果となって、ベルクに安いというイメージをもたらしているようだ。

 実際に同社の店舗と競合する3店舗で20品目のバスケット分析をするとベルクが一番高いにもかかわらず、消費者の多くは不思議なことに「ベルクは安い」と評している。

 今後、食品スーパー企業は、マッディング・ウォーター戦略と併用する格好で①生鮮食品の鮮度、②健康配慮、③プレゼンテーションなど、別の切り口での差別化政策にも力を入れ、「合わせ技一本」を狙って、大手と競合しながら勝ち残りを図っていくものと予想される。

 いずれにせよ、販促も従来のチラシ依存型からの脱却をきっかけにして、新しい時代を迎えているということだけは間違いない。

© 2024 by Diamond Retail Media

興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

ジャンル
業態