販促新時代(上)

2011/12/05 00:00
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 本日、明日は、現在発売中の『チェーンストアエイジ』誌2011年12月1日号に掲載した拙文をアップします。販促新時代――。長いですのでお時間のある時にお読みください。


 これまで食品スーパー業界における販売促進(販促)政策の中心的存在は「チラシ」だった。ナショナルブランドの安売り情報を満載して、店舗のある商圏内にばらまく――。

 その正確な投資対効果を算出・検証することは、なかなか難しいことではあったが、「競合店が実施するから防衛のためにわが社も…」という格好で「チラシ」の発行頻度はどんどんエスカレートしていった。
 

 実際、いまも1週間に3回発行する企業も少なくないのだから、「チラシ」には麻薬的な効果があるのだろう。

 ただ、特売「チラシ」を配布するには、取引先とのタフな交渉、売場変更、売価変更など煩雑なプロセスを経なければならず、多少売上が上がったとしても、営業利益をしっかり確保できているかどうかは分からなかった。

 そして、2011年3月11日に起こった東日本大震災は、食品スーパー業界の「チラシ」依存のあり方を見直す契機となった。

 目玉になる商品が物理的に不足しているのに加えて、震災後の自粛ムードで華々しく「チラシ」を打ち出す雰囲気ではなくなったのだ。
 

 そこで小売業各社は、一斉にチラシを自粛する。するとどうだろう。2011年度上期の決算では、大きく利益貢献を果たし、対前期比を上回る営業黒字を計上する企業が続々と出現。過度な特売と「チラシ」乱発の弊害が浮き彫りになった。

 しかも、「チラシ」の読み手は経年とともに減少している。

 新聞協会経営営業務部調べによれば日本国内の新聞発行部数は漸減傾向。1999年の一般紙の発行部数は4746万4599部。2009年は4565万9885部であり、この10年間で約180万部の部数減に至っているからだ。

 団塊の世代のリタイヤや若者の新聞離れなどさまざまな理由が考えられるが、販売促進政策を新聞の折り込み「チラシ」に依存してきた食品スーパー業界にとっては、大きな転換期を迎えていることに間違いない。

 その一方で台頭しているのは、ケータイ電話やスマートフォンを活用した販促である。食品スーパーが新しいデジタルメディアを活用した成功例は、いまだあまり存在しないが、イオンマーケティング(千葉県/小賀雅彦社長)など、ここに力を入れる企業は多く存在しており、今後の大きなトレンドとして注目されるところだ。

 もうひとつ。販売促進策として注目が集まるのは、「インストアプロモーション」である。
 

 各社各様に斬新な取組に努めているのは、「クロス・マーチャンダイジング(関連販売)」の分野だろう。生鮮食品売場に加工食品や日配食品を陳列してメニュー提案、ウイスキーの隣にソーダを置いて飲み方提案するといった展開は、ひとつの流行になっていると言っていい。問題は、売場のメンテナンスであるが、従来の部門別縦割り組織以外に副店長を置き、管理させるなどの工夫も見え始めた。

 「単品大量陳列」もインストアプロモーションでは効果的な一手として重用されている。単品を積んで訴求すれば確実に売上を取れることは経験的に判明している事実だ。ただその手法は千差万別であり、担当者による巧拙は鮮明に表れてしまう。「大量陳列コンテストなどを活用しながら全社レベルでの『単品大量陳列』のスキルアップを図ることも検討したい」と話すのは、マックスバリュ西日本(広島県)の岩本隆雄社長だ。

 また、「コトPOP」も食品スーパー業界の中では、ずいぶん定着している。売場の担当者の商品に対する思い入れやセールスポイント、調理方法を手書きで記す「コトPOP」は、属人的な要素もあり、サービス残業を強いてしまう問題も払拭できないために、一時は取りやめる企業も現出した。しかしながら、止めた瞬間に売上が減少することが分かり、再スタートさせたという企業もある。

 さらには、売上のヤマづくりのために、全社を挙げて、“お祭り”的インストアプロモーションで売場を盛り上げる企業もある。原信ナルスホールディングス(新潟県/原和彦社長)の事業会社ナルス(新潟県/山崎軍太郎社長)は、年に数回、「カーニバル」を実施している。「カーニバル」とは、ナルスが取り組む売上をつくるためのイベントでコンセプトは“お祭り”。全店舗全従業員が参加してコンテスト形式で競い合う。“土用の丑の日”の「うなぎカーニバル」、節分時に「恵方巻き」などを売る「節分カーニバル」、秋の収穫時にコメを売る「新米カーニバル」などがある。

 土用の丑の日に店内で焼くウナギの蒲焼の販売促進に注力して、1店舗で1日に1100本という驚異的な売上を見せる阪食(大阪府/千野和利社長)の阪急オアシス南千里店(大阪府)のような例もある。販売促進策が売上拡大と従業員のモチベーションアップにもつながり、一石二鳥の効果を発揮していると言える。

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