レストラン・エキスプレスの驚愕イノベーション
「資本主義は創造的な企業家のイノベーションによって発展する」と語ったのはヨーゼフ・シュンペーターである。
私は、このイノベーションという意味合いは、2通りあると考えている。
ひとつは、圧倒的な技術革新で過去の技術を飛ばしてしまうものだ。典型例を上げるなら、CD(コンパクトディスク)の技術である。CDの登場によって、それまでのレコード、レコードプレイヤー、レコード針などのアナログな技術は、一般的なリスナーにとっては不要の長物になってしまった。
2つには、なぜ自分は、こんなことを思いつかなかったのだろうと地団駄を踏んで悔しがるような簡単な技術だ。こちらの典型例は味の素のキャップである。消費量を増やさせるためにキャップの穴をちょっとだけ大きくして、一振り当たりの量を増やしたという故事はあまりにも有名だ。
最近、テレビ(TBS『がっちりマンデー!!』)を見ていて、すばらしいイノベーションを見せてくれたのは、「銀のさら」(寿司)、「釜寅」(釜めし)など、いろいろなフードをバイクで宅配する企業、レストラン・エキスプレス(東京都/江見朗社長)だ。
現在、従業員数1319人(うち正社員254人)、グループ年商約250億円という中堅外食企業である。
同社は、1992年、岐阜県岐阜市でサンドイッチの宅配事業を開始するところからスタート。1998年、寿司の宅配「寿司衛門」を開始――。その後、BBQチキンやカレー、とんかつ、中華の宅配なども手掛けた。
ただ、この辺りまでなら、ピザやそばなどの宅配の既存ビジネスモデルがあるから別に驚かない。
しかし、凄いと感心させられるのは、同社の新業態である「ファインダイン」(fine Dine)だ。現在、東京都内に赤坂店、青山店、銀座店、中目黒店、白金店の5店舗を展開する。
各店舗の店内では一切料理を作らず、「ピッツァ リディア」「周中菜房 白金亭」「つきじ宮川 本店」「ル・コフレ・ドゥ・クーフゥ」「ローダーデール」「グリル満天星」「アマポーラ」「トラットリア・セレーナ」「YumYum(ヤムヤム)」「豚組」「魚串・海鮮 ゆたか」「キムカツ恵比寿本店」「白金 小麦」「AC広尾」「大五」「甚六」「いなば和幸」「鳥亭」「朱雀」「鮨いのうゑ」「フリホーレス」「スーリヤ」「SaamRoa(サムロー)」「サムラート」「サムラート高輪店」「アメンロ・ラ・フィエスタ」「マンチズバーガー シャック」「バーガーマニア」「炭火焼肉トラジ」「旨焼もぐり」「ASTRANCE(アストランス)」「ハーデンタイテン」「西麻布 真不同(チェンプートン)」「麻布菜館」「ロウホウトイ」「邦人式中華酒家 HOI」「ロビン」「焼肉からし亭」の38店舗と契約して、そこの料理の宅配サービスを行っていることだ。
アマゾンドットコムのように他人の在庫を自分の在庫にしてしまう、という優れたビジネスモデルだ。
バイクなどのデリバリーとIT(情報テクノロジー)に関するインフラをうまく整備・駆使して、契約する店舗から商品をピックアップして、注文客に届ける――。
企業としての収入は、デリバリー料金のほか、店舗からももらうマージンがあるので相当割のいい商売といえるだろう。
従業員が各店舗の商品知識を詰め込んだり、GPS(全地球測位システム)を使ってドライバーの位置を確認しながら効率的に指示を出すなど、企業運営上の工夫やノウハウはもちろんある。
しかしながら、それほど革新的な技術は必要としないだけに、「なぜ、自分はこのビジネスを思いつかなかったのか」とテレビの前で地団駄を踏んで悔しがった企業家は少なくなかったのではないだろうか?
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