『amazon「帝国」との共存』
ナタリー・バーグ/ミヤ・ナイツ=著 成毛眞=監訳(フォレスト出版/1800円〈本体価格〉)
「本書は、あなたのビジネスの終末を知らせる黙示録になるかもしれない」。本書の監訳を務めた元マイクロソフト社長の成毛眞氏は、まえがきの書き出しでこのように煽っている。
言わずもがな、アマゾンの事業の広がりはとどまることを知らず、世界規模のスケールで、小売をはじめとしたさまざまな産業を飲み込もうとしている。
本書の著者であるナタリー・バーグ氏とミヤ・ナイツ氏は、小売アナリストとして長年の経験を持つ。タイトルのとおり、本書ではアマゾンを「帝国」になぞらえ、その驚異について解説する中で、第7章「ホールフーズ買収によるリアル店舗新時代へ」では、2025年までにアマゾンが拡張性の高いSMのコンセプトを確立、それをグローバルに発信することで、世界の消費者の食料品購入方法を変えてしまう、と大胆な予測もしている。
そのほか本書では、アマゾンの新戦略だけでなく、ライバルとなるリアル小売企業の対アマゾン戦略についても紹介しており、これらケーススタディは事業展開にあたってのヒントになるはずだ。
さて小売業界の関係者にぜひ読んでいただきたいのが、本書の第12章だ。章題は、「『経験』を売る未来のストアが生き残る」。同章の中で著者は「店舗はもはや商品を購入するためだけの場所ではない」と断じており、世界の小売企業が、生き残りを賭けて小売空間(店舗)の見直しに奔走している様子を解説している。一例を出せば、店舗の一角にカフェやレストランを設けたり、店舗の一部をコワーキングスペース(事務所)として貸し出したりといった具合だ。
人々がデジタル機器を放棄してでも体験したいと思わせるものを提供する──。こうした領域で抜きん出ることこそが、現代の小売ビジネスの勝利であるというのだ。「帝国」に打ち勝つのではなく、共存しながら、どう出し抜き、不可侵領域を築いていくか。アマゾン一強時代を生き抜くためのヒントが本書にはちりばめられている。
(『ダイヤモンド・チェーンストア』2019年7月1日号掲載)