日本生活協同組合連合会 専務理事 矢野和博
生協が存続し続けるためのマーケティング力が問われている
──組合員の平均年齢は年々上がっているのでしょうか。
矢野 組合員は若い世代も増えていますが、シニア世代が多くを占めています。日生協では毎年、組合員を抽出して調査を実施していますが、組合員の平均年齢は上がってきているのは間違いありません。なかでも、団塊世代の占める割合が高い。団塊世代の方々は定年退職をされつつありますが、退職すれば退職金が支給されるし、年金も支給される。お金に余裕がありますので元気な団塊世代の利用率を高めることは大切だと思っています。この考えを全国の生協が共有し、団塊世代のニーズに応える商品やサービスを考えていかなくてはいけません。
──組合員の高齢化が進めば、今後、生協の利用高は縮小していく可能性も大きいと思われます。
矢野 生協を長年ご利用いただいている組合員を数多く抱えていることが生協のいちばんの強みです。ただ、組合員が高齢化していることから、この数年で会員生協の危機感は相当高まっています。
生協が存続し続けるためには、既存組合員の需要を深掘りする一方で、子育て中の女性など新たな顧客層を取り込むといったマーケティング戦略が必要とされているのです。
商品開発の取り組みを可視化する
──会員生協がマーケティングを強化する中、日生協には何が期待されているのですか。
矢野 会員生協から最も期待されているのはコープ商品の開発と改善です。コープ商品は、会員生協から委託を受け、日生協が商品開発の中心を担っています。とくに宅配事業では、供給高に占めるコープ商品の占める割合は高くなっています。安全・安心面で努力してきた点が評価されているのだと思います。
コープ商品は安全性とおいしさを両立させ、あらゆる世代に受け入れられるべく開発されています。ここ数年は、量目や使い勝手について工夫を加えています。たとえば、従来は4人家族を想定した量目が中心でしたが、これを小容量にしたり、小分けできるようにしています。また、子育て中の女性や働いている女性を想定し、調理時間を短縮できる下ごしらえ済商品の開発に力を入れています。こうした商品は、シニア世代からも高い支持を得ています。
──コープ商品について、会員生協からはどのような要望が多いのでしょうか。
矢野 低価格商品を充実してほしいという要望が増えています。食品スーパーや総合スーパーなどとの価格競争が厳しさを増していることや、店舗と同じ価格で購入できるネットスーパーのサービスを提供する小売企業が多くなっているためです。
このため、「確かな品質をお買い求めやすく」をキーワードに、日生協が中心となって開発した商品がPB「コープベーシック」です。すでに約300品目まで拡大しました。事前に全国の会員生協から翌年度分の年間発注数量を取りまとめ、製造委託することで、仕入れ原価を低減する努力を続けています。
また、安全性の高い商品に対する要望も多い。原料や製法において安全性を追求した商品を提供することに関して、生協は先駆的な役割を果たしてきたという自負があります。しかし、組合員に支持されてヒットすれば、ライバル企業から真似をされることも多い。差別化に成功した商品は絶えずリニューアルしなくては必ず追いつかれます。
たとえば、1981年に商品化された代表的なコープ商品である「ミックスキャロット」は、当時としては斬新な野菜ジュースでした。発売した当時、子どもが飲めるような野菜ジュースはほとんどありませんでした。子どもが苦手なにんじんをおいしく飲めるように、フルーツを加えるなど何度も見直しを加えてきました。しかし、現在では、野菜ジュースはメジャーな商品となっています。生協が先んじて開発しても、必ず真似されるのです。そのため、常に既存商品を刷新するとともに半歩先をいく商品を開発し続けることが求められています。