政府が、来年度にトラック運送業界の10%前後の賃上げを目指す方針を打ち出した。物流の「2024年問題」で懸念される運転手不足解消へ待遇改善を急ぐ。ただ、業界は中小企業が9割を占める「多重下請け」構造。賃上げ原資確保に向け、運賃へのコスト転嫁を浸透させられるかが最大の課題となる。
「業界全体の健全化に向けて大手として貢献したい」(長尾裕ヤマト運輸社長)。政府が16日開いた物流業界との意見交換会には、物流大手のヤマトや佐川急便、日本郵政の社長らが出席。自社社員の処遇改善に加え、下請けへの委託単価引き上げにも取り組む姿勢を強調した。
公正取引委員会などが1月に発表した調査結果では、発注先との取引で労務費や原材料費などのコスト上昇分の価格転嫁を十分に受け入れていない企業の割合は、「道路貨物運送業」が5割を超え、対象業種中最悪の水準だった。立場の弱い下請け事業者の運賃への価格転嫁が進んでいない実態が際立っている。
国土交通省は是正のため、運送事業者が荷主企業や元請けと運賃交渉を行う際の参考指標となる「標準的な運賃」を平均8%引き上げる方針。荷役作業の対価や下請け手数料も加算できるようにし、来年度6~13%の賃上げが可能だと見込んでいる。
ただ、大手元請け各社の対応は十分に進んでいない。特にヤマトは先月、下請けに対し不当な運賃を設定したなどとして、国交省から改善勧告を受けたばかり。長尾氏は会合で「やはり荷主企業からの適正な運賃収受が必須だ」と指摘。荷主との値上げ交渉を強化する考えを示した。
全日本トラック協会の坂本克己会長は、国の動きを歓迎しつつ、「思惑通りの賃金をもらえるか、非常に不安だ」と懸念も口にした。