前回の記事では、「P2C(Person to Consumer)」などのデジタルを通した「人からの接客」が2023年のテーマになるというお話をご紹介しました。今後、小売事業者がデジタル接客に取り組むうえでは、インフルエンサーの活用もさらに重要度を増していくでしょう。そこで今回は、これから小売事業者が取り組むべきインフルエンサーマーケティングについて考えてみましょう。
SNS人材の採用が激化
「インフルエンサー」と言うと、タレントの延長のようなイメージがあるかもしれませんが、昨今では企業内でインフルエンサーを社員として抱える、いわゆる「社内インフルエンサー」の取り組みが活発に進んでいます。
社内インフルエンサーはその性質上、一から育成することは簡単ではありません。そのため、適性があるかどうか不確実な既存社員を育成するよりも、最初から多くのフォロワーがいたり、SNSの投稿が上手かったりする人を採用するのが主流です。アパレルやコスメの分野では、すでに多くの企業がそのような専門人材の採用を進めており、今後もSNSに精通した人材の採用競争は激化していくでしょう。
世間にはすでにインフルエンサーがたくさんいます。わざわざ社内で採用しなくても、こうした人材に委託だけするほうが手間はかからなさそうですが、なぜ社内で専用の人材を抱え込もうとする企業が増えているのでしょうか。
商品の理解度は社内人材のほうが高い
その主な理由の1つが、やはり社内の人間のほうが自社の商品やブランドの理解度が高くなるからです。どんなに優れた外部インフルエンサーにPRをお願いしても、あらかじめ用意しておいた台本以外に商品の説明をすることは難しく、ライブ感が求められる配信などではそこに大きな情報の差が生まれてしまうのです。とくにメーカーは商品に込めた気持ちなどを「ちゃんと伝えたい」という思いがあります。そのため、社内インフルエンサーの育成段階から商品開発やブランドコンセプトの構想に関わらせて深い知見を獲得させるか、あるいは配信の際には商品やブランドの開発者を社内インフルエンサーの傍らに置いて、一緒に説明できる状態が理想です。
外部インフルエンサーは高い集客力を持っていても、商品の魅力をアドリブで説明することはできません。たしかに、「使ってみてよかった」といった消費者感覚を伝えることには適していますが、商品に込められた想いや背景、こだわりのポイントなどを発信することはどうしても難しくなってしまいます。一時的なキャンペーンの紹介などであれば一定の効果が期待できますが、消費者に商品やブランドをしっかり理解してもらうためには、やはり外部ではなく社内の人間が情報発信したほうがよいのです。
社内インフルエンサーは「長期的な売上増」に有利
当社に入社してくる新卒・中途社員のなかにも、「Instagramのフォロワーが○万人います」という人が増えており、私たちも「そのほうがお客さまによい話ができる」ととらえて、重要視しています。とくに当社はECに関わる事業を展開しているため、SNSは切り離せません。ほかのスキルが同じであれば、InstagramやYouTubeのフォロワーが多いほうがよいのです。
これは例えると、少し前の渋谷109のカリスマ店長と性質的には同じなのです。オフラインからECへ、そして今はライブコマースへと、異なるのは商品の売場だけです。
実際にライブコマースの現場では、中途半端に外部インフルエンサーに依頼するより、しっかりと育成した社内インフルエンサーのほうが着実な売上につながっています。最近では万単位のフォロワーを抱える企業アカウントも多く、「中の人」(=アカウントを運営している社員)がメディアで取り上げられることも増えてきました。一方、著名なインフルエンサーやタレントの活用は、短期的な瞬発力が期待できる一方で、ほとんどが長期的な売上にはつながっていません。
以前、中堅コスメブランドの社長に「SNSの取り組みはどのような感じですか?」と質問したところ、自社ブランドのInstagramで1万人以上フォロワーがいるアカウントを運営しており、「社員にインスタライブをさせたらすごく売れた。それをずっと続けている」と教えていただきました。
外部のタレントに100万円以上のコストをかけてお願いしても、その瞬間のトラフィックはありますが、やはり「販売」にはあまりつながらないのです。もちろん、認知度アップという意味では別戦略の先行投資として外部の人材を活用することも重要ですが、長期的な利益につなげていくためには、自社独自のチャネルでライブ配信やInstagramを投稿したほうが安定的な売上につながるでしょう。
今後はアパレルだけでなく、さまざまな分野で社内インフルエンサー候補を積極的に採用する時代が来ることが予測されます。現時点で採用基準に含まれていないのであれば、自社の戦略と照らし合わせて、見直してみるのもよい機会かもしれません。