デジタル後進企業・英マークス&スペンサーがDXに成功した経緯と理由とは

伴 大二郎 (株式会社ヤプリ エグゼクティブ・スペシャリスト/株式会社顧客時間 プロジェクトマネージャー/db-lab代表)
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1884年創業の英小売大手マークス&スペンサー(Marks & Spencer:以下、M&S)は、20年度上期に創業以来初の赤字を計上した。その額は2億100万ポンド(300億以上)を超える大きな損失である。136年にわたって英国の“文化”に定着し多くの顧客から支持されていたM&Sだが、同社もコロナ禍の影響下でデジタル化の遅れが致命的とも言えるダメージを与えた。この決算の後、M&Sは「Never the Same Again(二度と同じ轍を踏まない)」というフレーズのもと新たな経営戦略を発表。全社的な変革を加速し「デジタルファースト」の小売企業に生まれ変わることを宣言した。

「同じ轍を踏まない」 渾身の改革が大きな成果を生んだ

英小売大手のマークス&スペンサーの店舗外観
マークス&スペンサーの店舗外観

 Never the Same Again戦略では、EC強化とオムニチャネルの推進、そしてメンバーシッププログラムのリニューアルが実行され、顧客体験を大幅にアップデートすることに成功した。それが奏功し、21年度の決算では3億9100万ポンドの利益を生み出し、売上高も20年度に対して6.9%増と回復している。

 EC事業では、とくに衣料品と食品に関して変革を進めた。衣料品では商品開発から販売までのデータを可視化した「商品エンジン」を再構築。一貫性のない価格設定と包括的なプロモーション割引の定常化によって信頼を低くさせていた割引施策のほとんどを停止し、クリアランスセール時の在庫は2年前と比較して34%減少させている。価格体系をより明確に競争力のあるものにしたことで、再び顧客の支持を集めることに成功。NPS(ネットプロモータースコア=顧客ロイヤルティの評価基準)評価も上昇している。

 また、2020年3月に「Brands at M&S」というプラットフォームを立ち上げ、40以上のブランドを自社ECサイト「M&S.com」で販売するなどデジタル中心のアプローチも進めた。Brands at M&Sの売上はオンライン売上全体の約3.5%を占め、100万人以上の顧客に購買されている。また、これらのブランドを購入する顧客は購入しない顧客に比べて、平均購入金額がおよそ2倍、次回購入までのスパンが約10日短くなるといったロイヤルティの高さが顕著となっている。

 一方、食品や日用品に関しては、M&Sはネットスーパー専業のオカド(Ocado)の英国小売事業の株式 50% を 7 億 5000 万ポンドで取得。19年にオカドとの合弁会社を設立している。これにより、顧客はオカドのウェブサイトを通じて M&S 製品を購入できるようになった。現在、オカドの英国における食品売上高の約25%をM&Sが占めている。

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記事執筆者

伴 大二郎 / 株式会社ヤプリ エグゼクティブ・スペシャリスト/株式会社顧客時間 プロジェクトマネージャー/db-lab代表
小売業界においてCRMの重要性に着目。一貫してデータ活用の戦略立案やサービス開発に従事した後、2011年にオプト入社。マーケティングコンサルタントを経て、 15年よりマーケティング事業部部長として事業拡大に向けた組織作りに着手。マーケティングマネジメント部やOMO関連部門等々を立ち上げ統括しながら組織を拡大。海外のイベントや企業訪問など、小売、リテールの情報を収集し社内外への発信活動を行う。21年にdb-labを設立し株式会社顧客時間にプロジェクトマネージャーとして参画。同年6月より、株式会社ヤプリのエグゼクティブスペシャリストに就任。
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