前回は、すべての小売業者にとって無視できない「デジタルシェルフ」の重要性についてご紹介しました。オフライン店舗を主体に展開していても、購入を検討する際の入口となるさまざまなデジタルチャネルの一等地に商品が置かれていないと、消費者の認知を掴むことは今後さらに難しくなっていくでしょう。では、デジタルへ対応するためには今後どのような取り組みを実施すればよいのか。今回は、日本のメーカーを例に陥りがちな落とし穴と準備すべき組織体制について、小売業が把握しておくべき点をご紹介します。
オウンドメディアではなくECモールに情報を掲載する
デジタルへの対応を検討し始めているメーカーの担当者と話すと、自然とオウンドメディアの部分に議論が偏りがちです。そうなると多くの場合、「自社メーカーサイトの中」に商品の使い方や食品の食べ方、特別パッケージの限定発売といった内容の記事がブログ内で展開されるようになります。
しかし、前回の記事でもご紹介したように、消費者は基本的に新商品が出たり、興味を持ってその商品を知りたくなったりすると、習慣的にふだん使っているアマゾン(Amazon.com)や楽天市場といったECモールや、使い慣れたSNSの口コミなどを見に行く傾向にあります。そうなれば当然、メーカーは自社サイト内のコンテンツではなく、各ECモールにオウンドメディアに掲載しているような情報を配置する必要があるはずです。
商品にもよりますが、せっかく作った動画や製品の特徴などの細かな情報を自社のオウンドメディアで公開することは、ECの場合あまり意味がありません。ECのユーザーを分析していると、モール内で映える・売れるといった派手な部分だけではなく、シンプルに製品情報を確認する人も多いため、自社ドメインの中だけにコンテンツを充実させるのではなく、ECモールの商品ページに細かな情報を掲載することが重要です。しかし、意外とそれができているメーカーは少ないのです。
デジタル担当を明確化するための組織体制再編を
なぜそのような状況に陥るのでしょうか。その要因の1つは組織体制にあります。当社がメーカーの支援に入ると、デジタルコンテンツを担当するチームがないことが少なくありません。メーカーの組織は、基本的に製造部があり、そことは離れた場所に営業部と広告宣伝部があります。そのため、デジタル関連の施策のKPIや予算を割り振ろうと思うと、ECモールでの戦略やコンテンツ制作を担当する部署を決めなければなりません。
こうした状況でデジタルコンテンツを拡充する際、多くの場合営業部が担当することになります。メーカーの営業部は卸との取引が主な業務であるため、デジタルコンテンツを整理することはKPIに盛り込まれず、実際に旗を振って実行する人もいません。
最近は広域営業部という部署を置き始めているメーカーもありますが、基本的に営業マンは売上アップを求められるため、コンテンツの品質を高めるという数値に表れない業務へのモチベーションは上がりにくいです。本来であれば広報やコンテンツの専門部署があったほうがよいのですが、現状は広報ではなく営業部マターになりがちなのです。メーカーは製品別事業部制度を採っているところが多く、全社的な動きが多い広報部では扱いにくいのです。
その結果、営業部にデジタル関連の施策を任せきりになることが多いのですが、営業部にはコンテンツに盛り込む素材がないため、頑張ってバナーを作り込むなどの取り組みはありません。もっと言えば、ECが求めるような情報が基幹システムに入っていないことがほとんどです。
現状では多くの組織がこのような状態のため、今後改革が必要です。ECは商品を手にとることや対面での接客ができないため、情報コンテンツの重要性が高いのです。多くの組織が課題を解決できていない今だからこそ、デジタルに対応できる組織の再編成が急務と言えるでしょう。
プロフィール
望月智之(もちづき・ともゆき)
ニッポン放送でナビゲーターをつとめる「望月智之 イノベーターズ・クロス」他、「J-WAVE」「東洋経済オンライン」等メディアへの出演・寄稿やセミナー登壇など多数。