米ペット用品EC「チューイー」の愚直なデジタル戦略に注目すべき理由

伴 大二郎 (株式会社ヤプリ エグゼクティブ・スペシャリスト/株式会社顧客時間 プロジェクトマネージャー/db-lab代表)
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ペットを亡くした顧客に見舞いの花まで ディズニーランドのような「顧客第一主義」の徹底

 シンCEOはチューイーがめざす顧客体験として、ディズニーランドを例に出してこう表現した。「ユーザーがまるで自分の子どもをディズニーランドに連れて行った時のような素晴らしい体験を提供し、また来たいと思ってもらうこと」「ユーザーが楽しいときも、あるいはストレスを感じているときでさえも素晴らしいと感じられる体験を提供できるようになること」「思いやりの観点からユーザーにアプローチすることで、ディズニーランドで行列に並んだとしても、その経験がマイナスにならずプラスになることと同じような体験を与えること」。そのうえで、「ディズニーランドとチューイのビジネスの共通点は『良い親でありたい』と言う根本的な所にある」とした。

 チューイーは”To be the most trusted and convenient destination for pet parents (and partners) everywhere(ペットの親<とパートナー>にとって最も信頼でき便利である目的地になる」を経営ミッションとして掲げている。つまり、ペットの親としての強い思いに向き合い、ペットの成長に合わせて”粘着性”の高い長期的な関係を築くことをめざしている。そのために10の行動規程を定めているのだが、その1番目にあるのが「カスタマーファースト」であり、そこには具体的にこう書かれている。

チューイーの経営理念
チューイーが掲げる10の行動規程(出所:https://cms-www.chewy.com/pdfs/Chewy-Operating-Principles.pdf)

「カスタマーファースト」
・私たちは、お客さまにいつも特別な、記憶に残る、信頼できる体験を提供します。
・私たちは、お客さまのニーズを深く理解し、予測し、それを実現するために弛まぬ努力を続けます。
・優れた顧客体験は、長期的な競争優位を生み出す差別化要因であると確信しています。

 スミット・シン氏はこのカスタマーファーストの質を上げていくことこそ、企業が成長する過程で重要なことだと確信していると言う。

 その一環として取り扱うブランドを拡充し続け、現在は2000以上のブランドの商品を販売している。そのうえで個別対応サービスを充実させており、100%無条件での保証ポリシーや、24時間365日対応のカスタマーサービスなど、企業にとっては少なくないコストがかかるサービスを維持向上し、ビジネスモデルの中に組み込んでいる。

 さらに細かいところでは新規顧客に手書きのメッセージカードを、ペットを亡くした顧客には見舞いの花を贈るといった取り組みも行っている。とにかく”ペットの親に寄り添う”ことを前提としたサービスを徹底することで、ペット専門店チェーンやアマゾンなど、リアル・ネット双方の競合企業との差別化につなげているのだ。

コールセンターの一般的なKPI「応答速度」「処理速度」を指標にしない理由

 また、チューイには2万人を超える従業員がいるが、前述のとおり24時間365日対応のカスタマーサービスを実現するため、そのうち3000人以上がカスタマーケアチームとして働いている。そこで興味深いのが、一般的にコールセンターなどがKPIとして重視する「ASA(Average Speed of Answer:平均応答速度)」を指標としていない点である。

 もちろん、応答速度を計測できるシステムは導入している(そして96%の受電に対して4秒以内に応答できていることを明らかにしている)のだが、ASAをKPIにすることで、担当メンバーがお客の声を聞き、共感し、問題を解決するというプロセスに集中できなくなることを避けているのだという。

 同様に「AHT(Average Handling Time:平均処理時間)」も意識させないようにしている。もちろん長時間の通話は短期的にはコストになってしまうが、すべての担当メンバーが「思いやりの心で対応する」ための投資と考えているのだ。長期的にはそのコストに見合うだけの価値を生み出すという計算をしており、実際にカスタマーケアを通じて交流があった顧客や、それ以外のサービスを通じてポジティブな体験をした顧客は、そうでない顧客よりもLTVが高いことがデータで計測できているという。

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記事執筆者

伴 大二郎 / 株式会社ヤプリ エグゼクティブ・スペシャリスト/株式会社顧客時間 プロジェクトマネージャー/db-lab代表
小売業界においてCRMの重要性に着目。一貫してデータ活用の戦略立案やサービス開発に従事した後、2011年にオプト入社。マーケティングコンサルタントを経て、 15年よりマーケティング事業部部長として事業拡大に向けた組織作りに着手。マーケティングマネジメント部やOMO関連部門等々を立ち上げ統括しながら組織を拡大。海外のイベントや企業訪問など、小売、リテールの情報を収集し社内外への発信活動を行う。21年にdb-labを設立し株式会社顧客時間にプロジェクトマネージャーとして参画。同年6月より、株式会社ヤプリのエグゼクティブスペシャリストに就任。
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