TQM活動をベースに収益性を高めチェーンストアのご利益を追求=アクシアル 原 和彦 社長
原信ナルスホールディングスとフレッセイホールディングスが2013年10月に経営統合し、アクシアル リテイリング(新潟県/原和彦社長:以下、アクシアル)が誕生してから約2年が経過しようとしている。経営戦略を原社長に聞いた。
チェーンストアとして「規模」を生かす
──食品スーパー(SM)事業を展開する原信(新潟県/原和彦社長)、ナルス(新潟県/森山仁社長)、フレッセイ(群馬県/植木威行社長)の3社が経営統合し、アクシアルが誕生してから約2年が経ちました。
原 和彦(はら・かずひこ)
1967年生まれ。89年、日本大学農獣医学部卒業、西友フーズ入社。94年、原信入社。2000年常務取締役。07年原信ナルスホールディングス専務取締役執行役員商品統括担当。08年代表取締役社長。13年10月1日から現職。
原 3社の特色を生かしたよいグループ体制が構築できつつあると考えています。
われわれのグループは「毎日の生活に必要な品を廉価で販売し、より豊かな文化生活の実現に寄与することを目的とする」を経営理念に掲げています。チェーンストアとして「規模」を生かし、お客さまの生活が豊かになるよう努力していくのが基本的な考えです。
お客さまにメリットをご提供していくには、「規模」を拡大し、そこに物流やITなどの「機能」を整備し、そしてそれを活用する「人材」の強化が必要になります。われわれはグループ全体をパソコンにたとえて、経営の基盤となる物流やITなどは「オペレーティングシステム」(OS)、商品政策やサービスを「アプリケーション」のような存在だと考えています。OSは、原信、フレッセイ、ナルスの3社で共有化し、アプリケーションの部分はそれぞれ独自のものを提供していくようなイメージです。
ただし、各企業にはこれまで培ってきたノウハウがありますから、その強みを阻害するのであれば無理に合わせるようなことはしません。たとえば、原信の特徴的なサービスの1つに、チェックアウト時に従業員が商品を袋に入れる「袋詰めサービス」があります。このサービスをナルスに導入したときは苦労しました。ナルスはポイントカードを導入しており、袋詰めとポイントの処理を両方行うことで、より手間がかかってしまったのです。フレッセイは、ナルス以上にポイントカードサービスを重視しているため、袋詰めサービスの導入は現時点では考えていません。
──統合によるシナジーも出ているようですね。
原 フレッセイとの統合後は、資材や備品調達の一本化、PB「Axial(アクシアル)」商品の共有などに取り組み効果を上げています。
今後は、物流体制の強化に取り組みます。原信、ナルスでは、13年10月に敷地面積約7000坪の「中之島ディストリビューション・センター(DC)」(新潟県長岡市)を新設し、約11万ケースの戦略的な在庫を持つことが可能になりました。それにより、PBをはじめ商品の大量購入等によって、仕入原価を低減することができました。また、それまでは週3回だった各店舗への納品を、毎日にすることが可能になりました。
13年12月には「棚割管理システム」を原信全店に導入し、商品の発注業務をコンピューターが行う「自動発注」体制が整いました。その結果、原信の実験店舗では、発注作業時間が1日平均185分から86分に減少。品切れ件数も1日平均169件から18.4件まで削減することができています。この「自動発注」は、15年度中にナルス全店にも導入予定です。
アドバンストリージョナルチェーンをめざす
──グループがめざすビジョンとして「Advanced Regional Chain(アドバンスト リージョナル チェーン)」構想を打ち出し、将来的に200店舗の達成を目標としています。
原 流通先進国である米国の経験則によると、チェーンストアとしてのご利益を享受するには、最低でも200店舗という規模が必要です。この規模がお客さまに、より豊かさを提供することができる大きな要素だと考えています。豊かさには2種類あると考えており、1つは、商品を安くすることで実質的に可処分所得が増える、量的な豊かさ。もう1つは、質的な豊かさです。たとえば寿司は、昔は特別な日のご馳走でしたが、今は気軽に食べることができるようになりました。それは、寿司チェーン店やSMなどの革新から生まれたご利益です。われわれも量的、質的に豊かさを提供できるSMをめざしていきたいと考えています。
──最近は「脱チェーンストア」を打ち出したり、「個店経営」を掲げる小売業も増えてきました。
原 チェーンストアとしてさまざまな部分で標準化を進めることは、マスメリットを生み出すうえでとても重要であり、これは基本として進めていきます。一方で、各店舗の個性や店長をはじめとした従業員の視点も大切にしていかなければなりません。本部の指示だけを実行すればいいという体質にならないよう、チェーンストアと個店経営を両立していく必要があると考えています。原信が新潟を中心としたローカルチェーンだったころに比べ店数が増え、本部からの目が届きにくくなっていますが、どの店舗でも質の高いサービスをお客さまに提供できるようにならなければいけません。われわれはこれをトータル・クオリティ・マネジメント(TQM:総合的品質管理)で実現していこうと考えています。
──TQMは、原信が30年以上前から実践しています。
原 原信でのTQMは、1980年に、「QC(品質管理)サークル」活動として始まり、その後、次第に当社の実態に合うように体系化されてきました。「QCサークル」とは、部門ごとに少人数のチームをつくり、継続的に行う品質改善活動です。主に製造業で導入されてきたもので、当初は「なぜ小売業で行う必要があるのか」と、従業員から疑問の声が多く上がりました。
しかし、導入時に立ち上げた「推進委員会」の努力もあって徐々に理解が広まり、原信の代名詞ともいえる「袋詰めサービス」をはじめ、多くの改善案を実現してきました。マネジメントの立場にある社員が取り組むService(サービス) Up(アップ)のためのManagement (マネジメント)「SUM活動」も加わり、14年度(15年3月期)には「QCサークル」と合わせて4015件の改善に取り組みました。TQMは、自分の担当領域の問題は自ら解決に取り組むという従業員の意識向上につながり、会社の基盤をより強固なものにしています。年に8回開催しているTQM発表大会では、フレッセイの活動事例も多く発表されるようになっています。
このTQMの一環として、「成功事例共有システム」を05年から稼働しました。これは、各店舗で成果を上げた取り組みを、写真や販売実績データとともに社内のイントラネット上に登録し、全社的に共有する仕組みです。各店舗から挙がってきた事例に対しては、エリアマネージャーとバイヤーが4段階で評価し、コメントも掲載できます。このシステムにより、効果的な事例を全店で共有、展開することができ、自らの取り組みが評価されることで、従業員のモチベーションも高まります。開始当初は登録件数もわずかなものでしたが、共有化が進むにつれ徐々に増え、今では1週間に1000件ほどの事例が挙がってくるようになりました。
また、口頭や書面で伝わりにくい内容も、写真を通して視覚的に共有化し、本部と現場の意思疎通を図ることができます。このような仕組みがあれば、店舗数を増やしていくなかでも、標準化を図りつつ現場の創意工夫を生かした売場づくりができると考えています。「成功事例共有システム」は、13年に分社化した連結子会社の情報処理会社アイテック(新潟県/内藤裕社長)でパッケージ化し、ほかの小売業に販売しています。