アングル:トイレ掃除や下水検査も、ロボットが変える「3K労働」
「汚い、きつい、危険」──。いわゆる3K労働が敬遠されがちなのは、日本に限った話ではない。米国のリサイクル処理場では年々、作業員の人材確保が困難になりつつあり、現場ではロボットを導入する動きが加速している。
米コロラド州デンバーにあるアルパインごみ・リサイクル処理場は、2年前にごみ分別ロボットの「クラーク」を導入した。
製造元のAMPロボティクスによると、このロボットが1分間に仕分けするごみは80個。一方、人間は100個を処理できるという。しかし、人間はすぐに疲れて1分間で40個のペースに落ちるが、ロボットは同じ速度で週7日、24時間稼動する。
クラークに現在与えられている業務は、牛乳パックを振り分けることだ。ごみが流れてくるベルトコンベヤーをカメラでスキャンし、リサイクルする素材をソフトウェアが判別、目標を定め、吸引し、取り出す。
AMP社は値段を明らかにしていないが、たくさんのセンサーと技術が詰まったクラークは安くはない。
それでも、アルパイン・リサイクリングのブレント・ヒルダ―ブランド副社長は2台目を導入する準備ができているという。この仕事を請け負う人材を見つけるのが困難になっているからだ。
「私たちはこの技術の先駆的導入者で、全米で初めて採用した会社だと思う」と、ヒルダ―ブランド副社長は胸を張る。「コストが高いことは認識している。それでも、この国のどのシステムにとっても素晴らしい投資だと言える」
AMPロボティクスは現在、世界10数カ所のリサイクル施設にロボットを提供している。開発したマタニヤ・ホロウィッツ氏は、汚れる仕事に就くロボットを開発するのは大変だと語る。
「調整や手入れ、バグ修正などのために(ごみ処理)施設で長時間過ごす必要がある」とホロウィッツ氏。「アルパイン社では0度近い寒さの中で座ってプログラミングをしなければならなかった。その上、腐ったミルクが飛んできて顔にかかったりした」と語った。
<3億人以上が職を追われる>
そもそも人間にとって、極度に有害な仕事が近ごろ誕生している。例えば、都市住民の健康状態を知るために下水を分析するといった作業だ。
棒の先にバケツをつけて下水を採取していたマサチューセッツ工科大学(MIT)センサブル・シティー・ラボのカルロ・ラッティ教授は、汚水が体にかかることにうんざりし、同僚の研究者たちに助けを求め、「ルイージ」の開発に至った。
ルイージは今やボストン、ソウル、ケンブリッジ、クウェート市で下水採取を行い、研究者らはそれを分析することで、インフルエンザが流行する兆しがあるか、米国ではオピオイド系鎮痛剤の摂取が上昇傾向にあるか、リアルタイムで知ることができる。
ルイージが排泄物を採取する一方、「ピーナツ」はそれを掃除してくれる。
カリフォルニア大学バークレー校で生まれたピーナツは、まだ開発段階。ピーナツ・ロボティクス社によると、準備が整い次第すぐ市場に投入し、年内にはホテルチェーンのレッドライオン・ホテルで仕事に取り掛かると予定だという。
「洗剤は漂白剤がベースで、そうした薬品に毎日触れるのは危険だ」と、ピーナツ・ロボティクスのジョー・アウゲンブラウン最高経営責任者(CEO)は言う。「便器を床に固定するボルトの周りなどは毛やチリがたまりやすく、そこを掃除するには四つん這いになって便器に顔を近づけなければならない。非常に不快な作業だ」
コンサルティング会社マッキンゼーによると、2030年までに業務の自動化によって転職を余儀なくされる人は3億7500万人に上る。その一方で、ロボットを管理するなど、新しい仕事も発生するとみられる。
ロボットに使われる主要部品の価格が下がり、人工知能(AI)ソフトの能力が向上するなか、そうした未来はすぐそこに迫っている。トイレブラシをピーナツのようなロボットに譲り渡す日は近いだろう。
(3月5日 ロイター)