サプライチェーンマネジメントとは?導入の目的や4つのメリット、課題や成功事例を紹介!
市場環境の変化が激しく、先行きが不透明な「VUCA時代」といわれる近年の日本。そんな状況下で、ビジネスを成功させるために再注目されているのが「サプライチェーンマネジメント」という経営手法だ。しかし、この言葉に聞き馴染みがなく、以下のように感じている人もいるのではないだろうか。
- サプライチェーンマネジメントとは、具体的にどのような活動なのか知りたい
- サプライチェーンマネジメントのメリットや課題、成功事例が知りたい
本記事ではまず、サプライチェーンマネジメントの概要や目的、再び注目されている背景を確認する。そのうえで、サプライチェーンマネジメントの導入によるメリットと課題、日本企業における成功事例を紹介しよう。
サプライチェーンマネジメントとは
まずは、サプライチェーンマネジメントについて、以下のポイントから詳しく確認していこう。
- サプライチェーンマネジメントの概要
- サプライチェーンマネジメントの目的
- サプライチェーンマネジメントが再び注目されている背景
サプライチェーンマネジメントの概要
サプライチェーンマネジメントとは、商品販売における一連のサプライチェーンを管理する経営手法のことだ。
では、サプライチェーンとは何だろうか。これは、原材料が調達され、商品が私たちの手に届くまでのモノ・お金の一連の流れのことを指す。具体的には、以下のプロセスが含まれる。
- 原材料・部品の調達(サプライヤー)
- 生産(メーカー)
- 物流・流通(物流・卸売事業者)
- 販売(小売事業者)
そしてこのサプライチェーンを分割して考えるのではなく、全体を統括し、情報を連携しながらプロセスの最適化を図る手法が、サプライチェーンマネジメントである。
サプライチェーンマネジメントの目的
サプライチェーンマネジメントにおける最大の目的は、過去の販売数や顧客ニーズなどのデータをもとに「必要なものを、必要なときに、必要なだけつくる体制」を整備することである。これは、以下のような生産性の向上にもつながるといえる。
- リードタイムの短縮
- 過剰在庫・欠品の防止
- コスト削減 など
もしサプライヤー・メーカー・物流業者のそれぞれが部分最適で動けば、各社のスムーズな連携は難しくなるだろう。その結果、消費者へ商品が届くまでのリードタイムが長くなり、ビジネスが滞ってしまう可能性もあるのだ。
こうした問題を防ぐには、やはり企業・部門・工程ごとではなく、サプライチェーン全体における最適化の達成が重要となる。そのためには、サプライチェーン各社が組織や会社の壁を超えた運命共同体として、それぞれの業務に取り組む姿勢が欠かせない。
サプライチェーンマネジメントが再び注目されている背景
日本では、ビジネス環境で起こっている以下3つの変化から、サプライチェーンマネジメントを強化する企業が増えている。
- ビジネスのグローバル化
最近では企業・ビジネスのグローバル化により、原料調達や生産拠点を国内から海外に移す動きが活発化している。その結果、サプライチェーンが複雑になり、モノ・カネ・情報の動きをあらためて見直し、密に連携をとりながら管理する必要性が高まっている。 - 労働人口の減少
運送業界では、少子高齢化などによるトラック運転手の人手不足が生じている。また、2024年には、自動車運転の業務(トラックドライバー)にも時間外労働の上限規制が適用されるため、長距離配送が難しくなるだろう。こうした背景から、サプライチェーンマネジメントを通じた輸送の効率化が急務となっている。 - ビジネスモデルの変化
近年では、以下のような新しいビジネスモデルによって、顧客ニーズを安く・スピーディーに実現できる企業が増えている。
・ Amazon・楽天:インターネット販売
・ ユニクロ・ニトリ:SPA(製造業が販売までを直接手がけるビジネスモデル)
・ セブンプレミアムやトップバリュ:プライベートブランド(小売業者が自ら企画・生産する独自ブランド製品) など
このようなビジネスモデルを持つ企業に負けないためには、自社のサプライチェーンの効率化や最適化を行ない、消費者のニーズに合致したサービスの提供を進める必要があるだろう。
サプライチェーンマネジメントを導入する4つのメリット
では次に、サプライチェーンマネジメントを導入するメリットを見ていこう。具体的には、以下の4つが挙げられる。
- リソース配分を最適化できる
- 適正な在庫を維持できる
- 供給リードタイムが短縮される
- タイムリーな意思決定ができる
リソース配分を最適化できる
メーカー・運送会社・小売店という各企業単体では、業務効率化に使えるヒト・モノ・カネがどうしても限られてくる。しかし、これらの企業をサプライチェーンでつなげることで、生産から販売までのプロセス全体を俯瞰できるようになる。これにより供給上の課題を適切に把握でき、ヒト・モノ・カネという資源分配の最適化にもつなげられるだろう。
適正な在庫を維持できる
原料調達から販売までの各工程が独立している場合、上流であるサプライヤーやメーカーは、小売事業者が知るような顧客ニーズ・最新の販売量などを把握できない。その結果、過剰生産によるムダなコストの発生や、欠品による機会損失などが起こりやすくなってしまう。
その点、サプライチェーンマネジメントを導入すれば、顧客ニーズや各工程の状況を迅速に把握・管理できるようになる。常に適正な在庫量を維持するとともに、コスト削減・生産性の向上も期待できるだろう。
供給リードタイムが短縮される
各工程の連携・情報共有により、リードタイムが長い工程では「在庫を多めに持つ」「原材料を早めに仕入れる」などの事前準備が可能となる。その分、供給にかかるリードタイムを短縮でき、スムーズな商品提供を実現できる。
また、ビッグデータなどを活用した需要予測システムを整備すれば、市場動向や顧客ニーズに合わせ、各工程の準備もより効率的に進められるだろう。
タイムリーな意思決定ができる
生産から販売までの企業・工程が独立している場合、顧客ニーズや販売量が増えても、「毎日15時に1,000個の部品を発送」といった出荷量・スケジュールの即時変更は難しい。もし出荷量を変えたい場合は、サプライヤー・メーカー間での協議や調整が必要となるだろう。
一方で、各工程がサプライチェーンマネジメントにより連携した場合、小売店の販売データなどは常に全体で共有されることになる。市場のトレンドなどを考慮し、サプライヤー・メーカーなどの上流工程から全体の出荷量やスケジュール調整ができるというわけだ。こうしたタイムリーな意思決定により、ビジネスにおける貴重な機会損失を防げる。
サプライチェーンが抱える5つの課題
業務効率化や生産性向上に役立つ反面、サプライチェーンマネジメントには以下のような課題やデメリットが発生する可能性もある。ここでは、各課題を詳しく見ていこう。
- 情報の伝達スピードが遅い
- 部分最適を求めてしまう
- ムダなコストが発生する
- 機会損失が発生する
- リスクマネジメントができていない
情報の伝達スピードが遅い
ビジネスで効率良く成果を出すには、顧客ニーズといった消費者情報のいち早い入手と、それにともなう柔軟な対応が不可欠だ。
ただし、サプライチェーン内に情報共有の専用システム・体制・仕組みがない場合、販売数や顧客ニーズなどの情報がスピーディーに伝わらず、対応が遅れることがある。情報は以下の順で伝えられるが、製造工程に届くまでにはタイムラグが発生しやすい。
▼消費者
▼小売業
▼卸売業
▼メーカー
▼サプライヤー
また、各工程・各企業の結びつきが強すぎた場合も、サプライチェーンが閉鎖的になることで顧客ニーズや市場動向の把握が遅れやすくなる。
よって、メーカーが消費者情報をキャッチした頃には、すでに主力商品のブームが終わりつつあることも少なくない。供給体制を整えたものの販売数が伸びない失敗は、サプライチェーンで起こりやすいといえる。
部分最適を求めてしまう
各工程・各企業がそれぞれの最適化を求めすぎた場合、サプライチェーン全体の動きや生産性が合理化されないこともある。
例えば、工場は生産効率を重要指標として動いている。そのため、顧客ニーズの変化による急な生産計画の変更には、人員や設備の稼働率が変わるなどの理由から難色を示すことが多い。
一方、ビジネス全体で見た場合は、顧客ニーズに合わせて生産対応したほうが売上や販売数が増え、市場での評判も良くなりやすい。
こうしたジレンマを解消するには、サプライチェーン上の各工程や各組織が、連携する目的や目標を共有し、生産計画の立案・実践をしていく必要がある。
ムダなコストが発生する
最新の販売動向や顧客ニーズがサプライチェーン全体に伝わらなければ、各工程にムダなコストがかかってしまう。
例えば、商品の販売数が想定をはるかに上回った場合、追加生産の対応が後手に回ることで、以下のような追加コストが発生するだろう。
- 生産要員やトラックドライバーの割増賃金
- 緊急配送によるトラックのガソリン代・高速道路代 など
逆に販売数が想定を大幅に下回った場合は、過剰在庫になることで、以下のようなコストが増大する。
- 大きな保管スペースのレンタル費用
- 賞味期限切れになった商品や原材料の処分費用 など
変化の激しい市場では、少しのミスや遅れが生産性・コストに直結してしまうのだ。
機会損失が発生する
商品の販売数が想定を大幅に上回った場合、その情報を迅速にサプライチェーン全体に伝えなければならない。しかし、情報伝達が遅れることで追加生産が遅延し、流通も滞ってしまう。本来であれば獲得できていたはずの売上やチャンスを逃し、大きな機会損失にもなりかねない。
また「夏休み前なのにキャンプ用品が品切れ」や「需要が高い時期にいつも入荷待ち」といった状況が続けば、消費者からの信頼も失うことになる。その結果、競合にファンを奪われる問題も起こりやすくなるだろう。
リスクマネジメントができていない
不測の事態に備えたリスクマネジメントの不足も、サプライチェーンマネジメントで起こりがちな課題だ。
もちろん各工程を担う企業や組織では、自分たちの担当領域におけるリスクマネジメントはしっかり行なっているだろう。しかし、こうした組織や企業が連携をした場合、「サプライチェーン全体のリスクがどこにあるか」「問題発生時に、だれがどう対処するか」といった問題は見落とされがちになる。目標の設定・共有と同じように、リスク分析や共有もサプライチェーン全体の視点で行なう必要がある。
サプライチェーンマネジメントの成功事例
最後に、日本の大手企業におけるサプライチェーンマネジメントの成功事例を3つ紹介しよう。
- トヨタの事例
- 花王の事例
- トーハンの事例
トヨタの事例
トヨタでは、必要なものを、必要なときに必要な量だけつくる「ジャスト・イン・タイム方式」を確立。自動車の生産現場における「ムダ・ムラ・ムリ」の徹底的な排除に成功した。
「ジャスト・イン・タイム方式」とは、生産性向上や業務効率化につながる以下のようなルールを定め、サプライチェーン全体の最適化を意識した取り組みである。
- 注文を受けたら、生産ラインの先頭になるべく早く指示を出す
- 組み立てラインでは、どのような注文がきても応えられるようすべての種類の部品を少しずつそろえておく
- 使用した部品は、使用した分だけ前工程に引き取りに行く など
花王の事例
花王のロジスティクス部門では、サプライチェーンマネジメントのための需要予測技術を開発。短期間で変動する顧客ニーズに応じ、柔軟に製品を供給できる仕組みを確立した。
その結果、60ブランド・1,500を超える製品を、受注から24時間以内に納品できる体制の構築に成功している。また、卸売店を通過せず、メーカーが自ら小売店に製品を届けられる点も、花王のサプライチェーンの大きな特徴である。
トーハンの事例
出版物の物流販売を手がけるトーハンは、書店向けの「TONETS V」と出版社向けの「TONETS i」というサプライチェーンマネジメントシステムを開発した。
書店向けシステムは、全国の市場データをもとに、各店舗で必要な商品や回転率の悪い商品を可視化することで仕入れを最適化するというものだ。
一方で出版社向けのシステムは、書店側の在庫・販売データの分析結果を出版社にフィードバックするものである。こうして出版社の商品戦略に寄与するとともに、機会損失の防止や、販売機会の増加にも貢献している。
まとめ
サプライチェーンマネジメントとは、メーカーなどでつくられた製品が消費者の手に届くまでのプロセス(サプライチェーン)を管理する経営手法のことだ。
サプライチェーンマネジメントを行なうと、過去のデータや顧客ニーズをもとに「必要なものを、必要なときに、必要なだけつくる体制」の整備が可能になる。サプライチェーンマネジメントに成功すれば、リソース配分の最適化や適正在庫の維持、供給リードタイムの短縮などのメリットが得られるだろう。
ただし、サプライチェーンマネジメントには、情報伝達の遅れにより機会損失などが起こりやすい課題もある。また、各工程が部分最適を求めるあまり、全体のリスクマネジメントが後手に回ることや、柔軟な生産体制の構築が難しくなることもよくある失敗例だ。
しかし、ビジネスのグローバル化やビジネスモデルの変化が著しい近年では、サプライチェーンマネジメントを通じた生産性向上や業務効率化が不可欠となっている。消費者に商品を届けるまでのプロセスに課題がある場合は、サプライチェーンマネジメントの導入や現状の管理方法の見直しをかけたほうがよいだろう。