九州の地域密着型ドラッグストア 「新生堂薬局」のDX戦略とは?
※この記事はダイヤモンド・ドラッグストア2023年11月15日号からオンライン用に再掲した記事となります。
福岡県、熊本県を中心に事業展開する新生堂薬局(福岡県)。「優れたテクノロジー」を積極的に活用した各種DX(デジタルトランスフォーメーション)施策を推進し、省力化や効率化を進める一方、接客はじめ来店客との「温もりあるコミュニケーション」にも力を入れる。これにより強い支持を獲得する地域密着型ドラッグストア(DgS)「ヘルスケアステーション®」の実現をめざす。
伸び悩むOTCに課題感
新生堂薬局の創業は1978年、福岡市内に薬局を開いたのが起こりだ。当初、福岡県内に事業基盤を築き、その後に熊本県へも進出。現在、九州、沖縄県のほか、東京都にも店舗網を広げる。直近の店舗数は、調剤薬局95店舗、DgS54店舗(うち調剤併設26)を数える。2023年9月期のグループ売上高は282億円を見込む。
同社が実践するのが「Purpose(パーパス)経営」だ。自社が存在する目的、意義を社会や消費者に知らせ、その目的、意義に沿った事業を展開している。
長期戦略として最も上位に位置づけるのは「健康寿命の延伸と社会保障費の抑制に貢献する」ことである。「健康なくらしのお手伝い」をミッションとして、地域密着型DgSを意味する「ヘルスケアステーション®」の実現をめざしている。
背景にはDgS業界として取り組むべきと同社が主張する課題認識がある。
新生堂薬局の水田怜社長は次のように話す。
「一般用医薬品(OTC)の販売額はDgS業界の成長と比べて微増にとどまる。しかもDgS1店舗当たりのOTC販売額は減少している。DgS業界はセルフメディケーションの推進、健康寿命の延伸に寄与することを打ち出しているのに、OTCの売上が伸びていないのは大きな課題だ」。
こうした考えのもと、同社は「相談できる薬屋」をめざしている。利便性の高い食品強化型調剤併設DgSを広げると同時に、安心してOTCを買うことができる「相談できる薬屋」になることで、地域の「ヘルスケアステーション®」を志向する。
現在、同社が注力するのがDXだ。「優れたテクノロジー」を積極的に活用して効率化を進める一方、接客はじめ来店客との「温もりあるコミュニケーション」を充実させようとしている。
アプリ利用で来店頻度が2倍
新生堂薬局はDXを推進するに当たって、「従業員がもっと働きやすい環境をつくること」「お客さまがもっと利用しやすい環境をつくること」の2つを重要テーマとする。
小売業界を取り巻く環境に目を向けると、人口減少によって人手確保が困難になっている。一方、高齢化によって接客ではより丁寧な説明、十分な会話が求められるようになってきている。つまり人手が足りない状況に対し、人手がかかる業務が必要になってきているのだ。
その解決のため、同社は最新の機器やシステムを活用している。新生堂薬局が「DX調剤薬局」と位置づける店の1つに「篠栗病院前店」(福岡県)がある。医薬品のピッキング作業を行うロボットのほか、卸売業者が納品した薬を既定の棚に自動収納する機械を導入。さらに一包監査支援システム、重量監査システムも採用している。処方箋どおりに必要データを間違いなく入力しさえすれば、薬のピッキングのほか数量ミスを排除できるようになっている。
これらにより薬局内の作業が大幅に効率化できたことに加え、利用する患者の待ち時間を短縮できるようになった。短くなった時間を活用すれば、薬剤師が丁寧に服薬指導を行える。また調剤過誤を防止できるため、薬剤師の心理的負担も大きく軽減できるようになっている。
物販面では顧客に利便性や楽しさを提供する仕組みもある。その1つはCRM(顧客関係管理)機能付きスマホレジアプリ「ホピモレジfor新生堂」だ。買物客は商品をカゴに入れる際、自らのスマートフォンにインストールしたアプリを使ってスキャン。レジでは好きな決済手段で支払える。
商品の登録はすで完了しているため、精算にかかる時間は大きく短縮できる。一方、アプリはCRM機能付きなので、店舗側からは購買履歴に基づいて各顧客に合わせた内容のクーポンを発行することも可能だ。独自のAI( 人工知能)レコメンドシステムによる、最先端の販促手法である。
アプリの画面には、買物中にクーポンが表示され、お客はその日の買物に活用できる。かつては大半が廃棄されていたという紙のクーポンだが、デジタル化によって利用されるようになっている。
買物時の利便性や楽しさが向上しただけでなく、さらに大きな効果も得られている。「アプリの利用者は、使っていない人と比較して来店頻度が実に2倍になった。つまり顧客の囲い込みにもつながっている」(水田社長)と、手応えを得ている。