ドアダッシュも「自動走行」に参入!? 日米に押し寄せる「小売物流自動化」の波
ドアダッシュ特許の分析
ドアダッシュが物流の最適化に力を入れていることは図表②で譲渡された特許の内容などから読み取れます。たとえば、図表②赤色ハイライト(上)の「US11,074,544」は、物流ノードに割り当てられた仕事量などからコスト優位となる物流ノードに発注を割り当てるための計算方法を内容としており、Dashers単位で物流を最適化するために有用です。図表②赤色ハイライト(下)US10,832,194は販売チャネルがオンラインと実店舗に分かれる物流において値引きなどのプロモーション活動を最適に実施する計算手法で、事業を多角化しているドアダッシュに必要な技術といえます。ドアダッシュ自身が出願した特許にも類似した技術は多く含まれています。
一方、ドアダッシュの特許の中には、同社の印象と異なる特許の一群が含まれていました。とくに注目したいのが、同社が50件ほど持つモビリティ(輸送機器)に関する特許です。そこには、IBMから取得した自動走行車両に関する極めて重要度の高い特許や、自社開発の無人配送車両の出願が含まれています。そして、ここから同社がラストワンマイルに至るまで完全自動配送を検討していることが見えてくるのです。それでは実際に、具体的な公報で確認していきましょう。
この特許は自動走行車両が「人が運転する車の運転手情報」を他の自動走行車両に通信することを内容としています(図表③)。他社からも50回引用されており、完全自動走行の実施に必須になる可能性の高い特許です。
それでは、この技術が必要とされるのはどんな場面でしょうか。「人が運転する車両」が存在することが前提なので、自動走行車専用のレーンではありません。また、特許のタイトルには、「モデル生成」(原文:driver modeling)とありますが、それが必要となるということは運転しているのは自動走行車とは直接関係の無い人物ということになります。つまりここで想定されているのは、「見ず知らずの人が運転する車両と自動走行車両が並走している」という場面です。端的に言えば、これは自動走行車両が公道などを走行するために必要な技術なのです。
この特許をドアダッシュが取得したことは大きな意味を持っています。ドアダッシュの考える自動走行車両は、専用の物流レーンを走るのではありません。倉庫内などの私有地を走るだけでもありません。その自動配送車は敷地を出て、公道を通り、目的地まで自動で配送を行います。そう、Dashers無しに、顧客のドアまでたどり着けるのです。これはドアダッシュの大きな方針転換を示しています。
もっとも、この特許だけならば自動走行車両を用いるのは倉庫間輸送だけかもしれません。しかし次のドアダッシュ自身の特許を見れば、そうでないことがわかります。
この特許は集積デポから注文者宅までの配送に用いる自動走行車両についてです。
ドアダッシュはウェブサイト上で、同社が自動走行車両を研究開発していることを積極的に発信しています。ただし、倉庫物流や小売店までを自動化して反復作業から人を開放すると同時に配送員の待遇改善を目標としていると強調しており、それを読むとDashersを補助するためのみに自動運転技術を用いる、たとえば上図黄色で示した範囲(配送拠点である集積デポまでの物流)に限り、自動走行車両を利用するかのように思えます。
しかし実際には、この特許は上図赤色点線で示した範囲、つまり集積デポから注文者宅までの物流に自動走行車両を用いることを内容としているのです。さらに、右図の自動走行車両本体の外観図に注目してください。この車両には大きな宅配用の保管スペースは確保されていますが、Dashersが搭乗する座席は用意されていません。つまりこれはDashersに代わって運転を行うのではなく、Dashers無しに配送を行う自動走行車両なのです。無人の車両については意匠も出願されており、ドアダッシュがDashersによらない無人配送の研究開発を推し進めていることは明らかです。