「ニュウマン高輪」に感じた強烈な違和感の正体

2025/09/26 05:00
小島健輔 (小島ファッションマーケッティング代表)

首都圏「駅ビル」の売上と販売効率

 「ニュウマン高輪」はJR高輪ゲートウェイ駅直結の「駅ビル」(郊外なら「駅前型SC」とも言える)だから、首都圏JR駅ビルの売上や販売効率と比較してみよう。

 首都圏のJR駅ビルで、売上でも販売効率でも頂点に立つのが「ルミネ新宿」(売上561億9600万円/営業面積2万432㎡)で、月坪販売効率は756千円に達する。JRの駅ビルではないが、売上では「東京ソラマチ」(568億6600万円/営業面積3万1000㎡/月坪販売効率505千円)が僅かに凌駕する。スカイツリーの集客力に加え、東武伊勢崎線のとうきょうスカイツリー駅と押上駅(京成線、東武線、都営浅草線、メトロ半蔵門線)に挟まれた稀有なターミナル立地だ。

 それに続くのが「ルミネエスト」(売上494億9400万円/営業面積1万9260㎡)で、月坪販売効率は707千円とルミネ新宿に迫る。売上では「ルミネ大宮」(428億3800万円/営業面積2万4275㎡/月坪販売効率485千円)、「ルミネ立川」(369億7000万円/営業面積2万4712㎡/月坪販売効率411千円)、月坪販売効率では「ルミネ北千住」(312億4700万円/営業面積1万6154㎡/月坪販売効率532千円)、「ルミネ横浜」(333億3700万円/営業面積1万7933㎡/月坪販売効率511千円)が続くが、いずれも極めて販売効率が高い。

 郊外ターミナル駅でも吉祥寺の「アトレ吉祥寺」(254億5800万円/営業面積1万2190㎡/月坪販売効率574千円)、船橋の「シャポー船橋」(167億3600万円/営業面積9027㎡/月坪販売効率510千円)、千葉の「ペリエ千葉」(293億8400万円/営業面積2万3780㎡/月坪販売効率340千円)、山手線の非ターミナル駅でも前述した恵比寿の「アトレ恵比寿」(286億4000万円/営業面積1万7227㎡/月坪販売効率457千円)などはターミナル駅に遜色ない。これらはJRだけでも1日平均乗車人員が10万人を超える(私鉄や地下鉄を合わせた乗降客数は30万人以上)繁華な駅だが、もっと乗降客数が限られる駅ではどうだろうか。

 1日平均乗車人員が5万2343人のJR「茅ヶ崎」駅の駅ビル「ラスカ茅ヶ崎」は売上147億5200万円/営業面積 1万2300㎡/月坪販売効率330千円とまずまずだが、同5万6371人のJR「辻堂」駅前のSC「テラスモール湘南」は売上568億8800万円/営業面積6万3000㎡/月坪販売効率248千円と、営業面積が大きいだけに売上規模は大きいが販売効率はやや落ちる。

小島健輔(小島ファッションマーケッティング代表)
小島健輔(小島ファッションマーケッティング代表)

 JR高輪ゲートウェイ駅と1日平均乗車人員が近いJR「海老名」駅(JRは1万4226人だが、相鉄5万3736人、小田急6万8004人)の駅前に位置するSC「ららぽーと海老名」は売上421億円/営業面積5万4000㎡/月坪販売効率214千円と駅前型の強みを生かしてまずまずの効率だが、同じららぽーとでも1日平均乗車人員が1万3645人と限られるJR武蔵野線「新三郷駅」前の「ららぽーと新三郷」は売上252億円/営業面積5万9400㎡/月坪販売効率117千円と格段に厳しい。

 JRの1日平均乗車人員だけ見れば、高輪ゲートウェイ駅は新三郷駅や海老名駅並みだが、「高輪ゲートウェイシティ」の開業でインバウンド客も動員し、都営地下鉄浅草線の泉岳寺駅を加えた実質乗降客数は恵比寿駅に迫っていくのでは──と当てずっぽうなことを言えば、「志も格も違う、こちらは100年先の未来をつくろうとしている」とルミネに叱られそうだ。しかし逆に言えば今日のリアルな生活感を欠いているわけで(今風の生活感をリードする「アトレ恵比寿」とは対照的)、パワーカップル(?)な芝浦港南地区の6万514人、セレブ(?)な高輪地区の6万5569人の日常ライフスタイルに寄り添わなければ集客も売上も目論見に届かない、というリスクは否定できないのではないか。

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記事執筆者

小島健輔 / 小島ファッションマーケッティング 代表

小島ファッションマーケティング代表取締役。洋装店やブティック、衣料スーパーを経営する父母の下で幼少期からアパレルとチェーンストアの世界に馴染み、日米業界の栄枯盛衰を見てきた流通ストラテジスト。マーケティングとマーチャンダイジング、VMDと店舗運営からロジスティクスとOMOまでアパレル流通に精通したアーキテクトである一方、これまで数百の商業施設を検証し、駅ビルやSCの開発やリニューアルにも深く関わってきた。

2019年までアパレルチェーンの経営研究会SPACを主宰して百余社のアパレル企業に関与し、現在も各社の店舗と本部を行き来してコンサルティングに注力している。

著書は『見えるマーチャンダイジング』や『ユニクロ症候群』から近著の『アパレルの終焉と再生』まで十余冊。

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