「ニュウマン高輪」に感じた強烈な違和感の正体

2025/09/26 05:00
小島健輔 (小島ファッションマーケッティング代表)

錯覚から始まる「ニュウマン高輪」の現実

 こう説明してもピンと来ない人も多いと思うし、現地へ行ってみてもおそらく大半の人は後背地とのリアルな位置関係が掴めないと思う。そうなってしまうのは「高輪ゲートウェイシティ」がJRの田町操車場(東京総合車両センター田町センター)約20ヘクタールの西側9.5ヘクタールを再開発したもので、「高輪ゲートウェイシティ」の開業と同時に新設された「南口」を出ると正面に聳(そび)える「高輪ゲートウェイシティ」が操車場側(東側)だと錯覚してしまうからだ。

 現実には「高輪ゲートウェイシティ」は田町操車場の西側を南北に細く再開発したもので、山手線の駅はその東側に位置するから、「高輪ゲートウェイシティ」に面する「南口」は西側を向いている。「西口」と名付けてくれれば錯覚しないで済むと思うが、他には20年3 月14日の高輪ゲートウェイ駅開設時に設けられた「北口」(北西口)があるだけで、「東口」(芝浦側)は存在しない。芝浦側からは未だ完成していない全長240mの自由通路跨線歩道橋を渡って西側の「南口」にアクセスするしかないが(JRの線路を潜り抜ける通称・お化けトンネル経由だと徒歩で10分以上かかる)、鉄道マニアでない限り相当な苦行だと思われる。

ニュウマン高輪とJR高輪ゲートウェイ駅、泉岳寺駅の位置関係(ニュウマン高輪プレスリリースより)

 こんなことを延々と説明したのは、大型の商業施設が成り立ちそうもない立地だと言うことを実感してもらいたいからだ。実際、JR高輪ゲートウェイ駅の1日平均乗車人員(JRは乗降客数を開示していないが倍すれば近似する)は開業した20年の6785人から24年は1万4209人まで増えてはいるが、JR「新宿」駅の66万6809人(私鉄、地下鉄を合わせれば乗降客数約350万人でギネス認定世界最多)とはケタが違う。

「高輪ゲートウェイシティ」背後の国道15号線(第一京浜)にある都営地下鉄「泉岳寺」駅は都営浅草線で「押上」駅に続く第二位の乗降客数で19万5118人に達するから、JRと合わせた乗降客数は35万1639人に膨らむ。だが、京急本線との乗り換え客が大半でJR高輪ゲートウェイ駅と乗り換える客数は限られるから大幅に割り引いて見る必要がある。とは言っても、合計乗降客数はJRの22万5204人と東京メトロの10万4761人を合わせて34万535人が乗降する山手線の「恵比寿」駅に匹敵する。「高輪ゲートウェイシティ」の開業でJR高輪ゲートウェイ駅の乗車人員が「大崎」駅(14万5194人)や「浜松町」駅(13万3902人)ぐらいまで増えれば、泉岳寺駅と合わせた実質の乗降客数は恵比寿駅に迫ると期待できるかもしれない。

 恵比寿駅にはJR東日本の駅ビル「アトレ恵比寿」があって営業面積1万7227㎡で286億4000万円を売り上げているが(月坪販売効率は457千円)、営業面積が推計3万㎡に迫る「ニュウマン高輪」はどれほどの売上が期待できるのだろうか。

 跨線歩道橋の文脈でも指摘したが、駅の東側(芝浦側)からアクセスするのは極めて困難だし、そもそも工場や倉庫ばかりで生活人口は限られる(品川寄りや田町寄りにはマンションも増えているが)。ちなみに25年9月時点の住民基本台帳に基づく芝浦港南地区(芝浦、海岸、港南、台場)の人口は6万514人、高輪地区(三田4〜5丁目、高輪、白金、白金台)の人口は6万5569人に過ぎない(いずれも外国人を含む)。

サーキュラーエコノミーを実践するアパレル&雑貨ブランド「BRING」(筆者撮影)

 突出した高所得とは言え、合計12万6000人ほどの居住人口から見れば、量販店核のコミュニティセンターか、せいぜい小振りのイオンモールが成り立つかどうかという商圏規模であり、推定営業面積3万㎡弱の駅ビル(?)が成り立つ立地とは思えない。インバウンド客が押し寄せない限り、集客も売上も厳しいのではないか。

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記事執筆者

小島健輔 / 小島ファッションマーケッティング 代表

小島ファッションマーケティング代表取締役。洋装店やブティック、衣料スーパーを経営する父母の下で幼少期からアパレルとチェーンストアの世界に馴染み、日米業界の栄枯盛衰を見てきた流通ストラテジスト。マーケティングとマーチャンダイジング、VMDと店舗運営からロジスティクスとOMOまでアパレル流通に精通したアーキテクトである一方、これまで数百の商業施設を検証し、駅ビルやSCの開発やリニューアルにも深く関わってきた。

2019年までアパレルチェーンの経営研究会SPACを主宰して百余社のアパレル企業に関与し、現在も各社の店舗と本部を行き来してコンサルティングに注力している。

著書は『見えるマーチャンダイジング』や『ユニクロ症候群』から近著の『アパレルの終焉と再生』まで十余冊。

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