「ニュウマン高輪」に感じた強烈な違和感の正体
JR線「高輪ゲートウェイ」駅直結の大型複合施設「高輪ゲートウェイシティ」の中核商業施設「ニュウマン高輪」が9月12日に開業した。しかし実際に現地を訪れると、あまりに生活離れした高尚なコンセプトと偏った構成に強烈な違和感を否めなかった。首都圏ターミナルの駅ビルで連勝してきたルミネだが、乗降客数が限られる新設の高輪ゲートウェイ駅で結果を出せるのだろうか。
文=小島健輔(小島ファッションマーケッティング代表)

「ニュウマン高輪」ってこんな世界
「ニュウマン高輪」はJR高輪ゲートウェイ駅直結の大型複合施設「高輪ゲートウェイシティ」の中核商業施設として、JR東日本の商業施設子会社ルミネが開発したもの。オフィスやホテルが上層部に入るツインビル「ザ・リンクピラー1」サウス棟の1〜5階、同ノース棟の1〜5階と28〜29階(ルフトバウム)、26年春に開業する「ザ・リンクピラー2」(ノース棟の北側)の2〜3階からなる総床面積6万㎡の、ルミネとしては最大規模の商業「文化」施設だ。
3ゾーン合計165店舗が9月12日にオープンし、ポップアップストア12店舗を加えて177店舗が9月からの2カ月で揃う。業種構成は、「ファッション」が4割、「コスメ・ライフスタイル」が3割、「飲食・サービス」が3割で、ファッション関連の比率が高い「ルミネ」よりもライフスタイルと飲食コミュニケーションにシフトしている。

循環型ファッションの未来をつくるプロジェクト、サステナブルな価値観やサーキュラーエコノミーを体現するアパレルやバッグのブランド、リユースストアの導入などSDGs意識の高さに加え、サウス5階には自由で楽しい書店、遊び心あるアート、カフェ、オールデーダイニング、文具、雑貨が融合した大人も子どももそれぞれの価値観で過ごせる3300㎡の体験型フロア「こもれびら」を設置している。
極め付きは28・29階の2フロア8000㎡に500本以上の植物を配した飲食フロアの「ルフトバウム」で、高級レストランやバー、割烹など1000席以上を集積している。意表を突く環境のハイセンスな飲食コミュニケーション空間で話題性は十分だが、他にお手頃なフードコートのような施設は存在しない。”高邁な酔狂”という印象は否めなかったが、ここからの眺望は素晴らしく、ウォーターフロントの景観はもちろん、鉄道ファンには垂涎のジオラマが見下ろせる。
滲む「日常消費」対応の弱さ
足元の高輪地区住民も意識して、高級スーパーマーケットの「明治屋」(ノース1F)と「成城石井」(サウス1F)も導入しているが、動線が2F以上(内向き)と1F(外向き)で意図的に分断されており(1F店舗は「高輪リンクライン」と名付けた明治期線路跡の外側通路に面する)、館内からのアクセスは分かりづらい。両店とも規模が小さく品揃えが限られ、コンビニ的な印象は否めないから、日常消費の核となる集客力は望むべくもない。
総じて高邁な理念やデザイン性が前に出て、商業施設としての業種構成や配置、利便性が詰められておらず、卓越したコンセプトで広域から薄く集客できたとしても、足元の日常消費で高い占拠率を確保するのは困難と思われる。JR高輪ゲートウェイ駅の限られた乗車人員と「高輪ゲートウェイシティ」の勤め人やホテル客、足元商圏の住民だけで「ニュウマン高輪」を維持する売上を確保できるのか、当事者ならずとも不安になってしまう。
文化的なパビリオンかお洒落な人達のソーシャル・コミュニケーションの場としては人気を集めるかもしれないが消費の拠点とはなり得ず、アクセスの偏りや駐車料金の高さ(30分500円、税込5000円以上の買い上げで1000円分が無料になる297台の駐車場)を考えれば、人気の継続性にも疑問符が付く。

ルミネは『商業の枠組みを超えて100年先のまだ見ぬ生活価値をデザインし、単なる物販ではなく普遍的・本質的価値を追求する体験・共創を重視した施設』と謳っているから、凡人の理解を超えた高邁な思想に基づく壮大な実験場と受け止めるべきだろうが、それで膨大な投資(高輪ゲートウェイシティ全体で6000億円)を回収できるのだろうか。損失が嵩んで鉄道の運賃に皺寄せが来るのはごめん被りたい。
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