今回訪れたのは神奈川県高座郡寒川町にある「クリエイトSD倉見才戸(くらみさいど)店」(以下、倉見才戸店)。2023年9月15日にオープンしたばかりの店舗で、医薬品・化粧品から生鮮食品まで幅広く取扱ういま注目の「フード&ドラッグ」だ。
同店は「倉見」駅からバスで10~15分ほどの場所にあるものの、便の本数は少なめでアクセスのしやすさにはやや難がある。ただ、近隣には食品スーパーやドラッグストアなどの小売店がほとんどなく、同店が地域のライフラインとなっていると言っていい。本稿では、新店ならではの隅々まで気配りが行き届いた同店の売場を視察し、現役ドラッグストア店員の目線から感じたことを綴っていく。
エンドプロモーションの効果的な演出
倉見才戸店のポイントは「エンドプロモーションを効果的に活用している点」だ。一般的にエンドとは、商品が並ぶ定番棚(ゴンドラ什器)の折り返し地点に当たる売場のことを指す。お客さまを引き付け、購買意欲を高める役割を担うことが多く、業界用語で「マグネット売場」と呼ばれることもある。
エンドの種類は大きくわけて2つ。低価格でお買い得感を出す「価格訴求型」と季節や生活の悩みにアプローチする「提案型」だ。倉見才戸店は売場面積が広いこともあって、価格訴求型・提案型どちらのエンドも作成しており、お客さま一人ひとりの生活に合った商品提案ができていた。
視察日は、「価格訴求型エンド」ではボディソープ本体+詰め替えの企画品がお買い得価格で展開され、「提案型エンド」では「推し活」をテーマに、“推しをしっかりと見る力”のサポートとして目薬やサプリメントといったアイケア商品を展開。さまざまな視点から商品展開がされていて、店内を歩くだけで楽しめる工夫がなされていた。
前回視察した「ココカラファイン藤沢駅前店」では、化粧品のプロモーションエンド(今回で言うところの提案型エンド)の出来栄えについて特筆した。それに対し、倉見才戸店では、日用雑貨のセット品や医薬品をメインにエンド作成していた点にも注目したい。
藤沢駅前店のような駅前店舗では客引きの意味も込めて、エンドにトレンドコスメや“バズり”アイテムをプロモーションすることが多いが、倉見才戸店では地域の生活を支える店舗として、よりニーズに合った実用的な日用雑貨の展開やオリジナリティあふれるエンドテーマで購買意欲を高めている。地域に合わせた丁寧な商品訴求が行われており、大変好感が持てた。
エンド展開の落とし穴
複数のエンドがつくることができる店舗は、多種多様な生活に寄り添った商品提案ができる。しかし、複数のエンドを機能的に使いこなすにはそれなりの技量が必要だ。先ほどはエンド展開のメリットを挙げたが、ここではデメリットを書き出していく。
エンド展開のデメリットとしてまず考えられるのが、商品のボリュームの維持の難しさだ。エンドは在庫の多さで迫力のある売場を演出しているのだが、商品が売れて棚がスカスカになると売場の魅力がガクンと落ちる。
潤沢に在庫がある売場のエンドは、華やかで目を引き、目的の商品ではなくてもつい手に取ってみたくなる心理が働く。しかし、在庫が薄い売場は単純に魅力のない棚と化し、売れ数が極端に落ちる。お買い得品や話題品を大々的に展開しているときは回転率が上がる半面、棚がすぐ空いししまうので適宜品出しをして管理する必要がある。定番棚より在庫の動きがよいので、売場メンテナンスがちょっと面倒なのだ。
巧みなエンドづくりに注目
このような問題点に対し、倉見才戸店では、医薬品エンドに空き箱や商品の正面デザインがラミネートされた販促物を使ってうまくコントロールしていた。ある程度売れても補充しやすいように、手前に現品を陳列しながら、箱陳列やラミネートポスターでボリューム感を維持し、うまく在庫管理をしている印象だ。企画品の在庫も豊富で、売場の華やかさを損なわれていない、安心してみていられるエンドであった
もう1つデメリットを挙げるとすると、お客さま側から見たエンドの認知度と視認性の低さがある。エンドは定番棚と違い、季節や訴求したいアイテムによって、適宜商品を変更したり、場所を替えるので、力を入れたエンドづくりをしないと商品が認知されにくい(常に商品位置が決まっている定番売場の方に意識が流されてしまう)。
また、ゴンドラ什器の折り返し地点ということもあり、一定のお客さまにとっては折り返しポイントそのものが死角となり、売場が見えていない場合もある。「商品の8割は定番から売れる」と言われるくらいなので、エンド作成は「本当に売りたい・目立たせたい商品」を相応の熱量をもって取り組まないと、ただの「物置」(=死にエンド)と化してしまうリスクがある。
では、お客さまの死角になりやすいエンド提案にどう存在感を持たせるか。倉見才戸店では、壁面がシャンプーのコーナーとなっていて、途中までは定番の品揃えだが、通路をある程度進むと、ある場所から価格訴求型商品を配置した売場となっている。定番売場と同じ並びで、お買い得品のシャンプーやトリートメントが一面に展開されているのだ。
エンド提案を定番売場に組み込み、「定番一体型エンド」にすることで売場の見逃しがないよう工夫しているのは、とても画期的だと思った。これらはクリエイトSD各店で見ることができるので、ぜひお近くの店舗で確認してもらいたい。
今こそ考えたい「本来のドラッグストア」の姿
前述のとおり、同店はフード&ドラッグであるため、青果、肉、魚、日配、米、酒類などのスタンダードな食品を網羅した品揃えとなっている。視察時期が秋口ということもあって、青果の導入部には「青果大放出セール」と題して、鍋のお供であるキャベツやニンジン、長ネギなどの野菜を格安で販売するなど、食品スーパーを代替する機能も備えている。ドラッグストアが食品スーパーの機能を兼ね備えるのは、大変便利だ。しかし、売場を巡回して気付いたことがある。
それは「ヘルスケアの機能がおろそかになっていないだろうか」という点だ。視察中、店舗スタッフの多くが、食品コーナーの巡回・品出しに従事しており、医薬品コーナーにはスタッフがひとりもいなかった。
ドラッグストアは本来「健康と美容に関する提案と訴求を主」(日本チェーンドラッグストア協会『ドラッグストアの定義』より抜粋)とする店であり、必要であればカウンセリング、あるいは相談ができる環境でなければならないと筆者は考えている。
その点で、この倉見才戸店は売場が広く、市販薬の相談をしたいときにスタッフをすぐに呼べない点が気になった(医薬品売場から食品売場にいるスタッフを呼ぶのはあまり現実的ではないと思ってしまうくらいの距離があった)。定番売場の各所でスタッフ呼び出しボタンが設置してあったようだが、本来のヘルスサポートとはかけ離れているように筆者は感じてしまった。
この店をやり玉に上げてしまったが、昨今勢いを増しているフード&ドラッグという店舗形態は、「食品を多く扱ってほしい」というニーズに応え続けたが故に、ヘルスサポートの利便性が欠けているようにも思う。
繰り返しになるが、食品スーパーの機能を持つドラッグストアは大変便利だ。筆者もフード&ドラッグをよく利用し、その便利さの恩恵を受けている。しかし、ヘルスサポートのサービスを削ってまで食品を扱うべきなのか。扱うとしても、どこまで手広くしていくのか、筆者は疑問を抱きながら他店を視察したり、時には自店の現場で働いている。
働き手が少なく、必要数のスタッフを配置できない問題も重々理解している。しかし、市販薬乱用といった業界全体の問題も抱えている今こそ、“ドラッグストアらしいドラッグストア”に原点回帰すべきではないのだろうか。