ついにベールを脱いだ、ローソンの「未来のコンビニ」の実像

取材・文:小野 貴之 (ダイヤモンド・チェーンストアオンライン 副編集長)

サイネージが随所に!AIと連動し商品提案

 「未来のコンビニ」というコンセプトのとおり、高輪店にはローソン初の新技術が随所に導入されている(図表)。ローソン初の取り組みを中心に売場を見ていこう。

図表●「Real×Tech LAWSON」1号店におけるリテールテックの取り組み一覧

 店内を見渡してまず目を引くのはサイネージの多さだ。レジカウンターと一体となったT字形の大型サイネージのほか、ゴンドラ上部、棚のプライスレール部分など店内の至るところにサイネージが設置されている。

 サイネージでは、いわゆるリテールメディアのような商品のプロモーション映像、時間帯で変化する緑化アート、カウンターFF(ファストフード)「からあげクン」の出来たてのお知らせなどを配信。また、サイネージは都市OSと連動しており、天気、電車の運行、周辺エリアの混雑状況などの情報も表示可能だ。

※編集部註:街の設備や街の人に関するデータを収集・分析して、そのデータを活用した新たなサービス創出を可能とするデータ基盤のこと

T字形の大型サイネージ
売場内でまず目を引くのが、レジカウンターと一体となったT字形の大型サイネージ。商品プロモーションや天候、電車の運行情報などさまざまな映像を配信する

 さらに、おにぎりの棚のプライスレールに設置されたサイネージは、棚上部のAIカメラと連動した「AIサイネージ」となっている。売れ筋ランキングやクーポンの提案のほか、おにぎりを手に取ると、その商品を補完する栄養成分や「プラス1品」のレコメンドが表示される。

 そのほか一部のゴンドラエンドでは、プライスレールのサイネージをタッチすると、棚上部の大きなサイネージに商品の詳細な情報が表示されるという仕掛けもある。

プライスレールのサイネージ
プライスレールのサイネージをタッチすると、ゴンドラ上部のサイネージに商品の詳細情報が表示される

「からあげクン」の自動調理ロボも!

 サイネージだけではない。省人化をめざし、高輪店ではロボット活用の実験も行っており、レジカウンター内にはローソン初となる「からあげクン」の自動調理ロボを導入。材料を投入するだけで、フライ調理からバットに移すまでを自動で行う。将来的には、材料の自動投入や箱詰め、店内在庫との連動も実現するとしている。

 そのほかバックヤードには、1日最大約2000本を陳列可能という飲料の自動陳列ロボットも導入する。

飲料の冷蔵ケース裏
飲料の冷蔵ケース裏、バックヤードに導入した自動陳列ロボット。24時間365日稼働可能で、2ℓペットボトルにも対応している

 また、AIの活用にも力を入れ、店舗運営をサポートするAIエージェントをローソンとして初めて採用。店内カメラの映像をAIが解析して、店舗の状態を可視化。その店舗がどのような課題を抱えているのかをAIが抽出し、それを解決する施策の提案も行う。

 これにより、店舗運営における属人的な要素を減らし、運営を効率化。さらには日販の向上をめざすという。

おにぎりコーナーのプライスレールサイネージ
おにぎりコーナーのプライスレールサイネージはAIカメラと連動しており、商品を手に取ると、栄養成分やプラス1品の提案が表示される

 そのほかにも、テレワークブースのようなスペースで、暮らしの困りごとや服薬指導、金融の相談などに遠隔接客で対応する「Pontaよろず相談所」、年齢認証が必要な商品にも対応する、3Dアバターの遠隔接客によるセルフレジ「3Dアバター遠隔接客」など、従来のCVSにはないリテールテックが随所に導入されている。

次世代型店舗で閉塞感打破なるか

 ローソンが「Real×Tech LAWSON」を通じてめざすのは、「新たなお客さま体験」と「新たな店舗運営」だ。ローソンでは、30年度までに店舗オペレーションを30%削減する目標を掲げている。

 ロボティクスやAIによる効率化、生産性向上に取り組みながら、「店舗オペレーションを30%削減するとともに、売上を30%上げたいと考えている。『上がった生産性を何に使うのか』ということについてもこの店舗で実証実験を行いたい」と竹増氏は話す。

 具体的な時期については公表していないものの、今後ローソンは高輪店での実験で成果が得られた取り組みを全国の既存店に横展開していく方針。将来的には海外店舗にも展開するという。

 ただ、大型サイネージやロボティクス、二十数台の防犯カメラのほか十数台のAIカメラも導入するなど、「Real×Tech LAWSON」にかかる投資コストは少なくない。投資を上回るぶんの生産性向上、日販改善効果を創出できるかが横展開実現のカギとなる。

 CVS業界を見渡してみれば、セブン-イレブン・ジャパン(東京都/阿久津知洋社長:以下、セブン-イレブン)が24年2月に次世代型店舗「SIPストア」を千葉県松戸市にオープン。

 ファミリーマート(東京都)は、著名デザイナーのNIGO®氏をクリエイティブディレクターに迎え、26年中に次世代型店舗を出店することを明らかにしている。

 次世代型店舗の開発が過熱し始めたCVS。今回オープンしたローソンの高輪店は、新たな顧客体験と、現場の生産性向上を念頭に置いており、目立った新商品はなく、商品政策は既存店を踏襲したものとなっている。

 対照的に、セブン-イレブンのSIPストアでは、変化するお客の消費行動や生活に対する価値観、また、幅広いニーズに対応するために、商品にフォーカスした実験を行っている。店内抽出の紅茶マシンや店内焼成のパンなど、一部商品はすでに水平展開も始まっており、ローソンとは異なるアプローチで次世代型店舗の模索が続く。

 ファミリーマートの次世代型店舗がどのような方向性になるかはまだ不明だが、同社が近年リテールメディア事業に注力していることを踏まえると、ローソンと同様にリテールテックを活用したものになる可能性が高そうだ。

 以前のような新規出店による成長が難しくなり、ここ数年は閉塞感が漂うCVS業界。次世代型店舗はCVS再成長に向けた起爆剤となるか。

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取材・文

小野 貴之 / ダイヤモンド・チェーンストアオンライン 副編集長

静岡県榛原郡吉田町出身。インターネット広告の営業、建設・土木系の業界紙記者などを経て、2016年1月にダイヤモンド・リテイルメディア(旧ダイヤモンド・フリードマン社)入社。「ダイヤモンド・チェーンストア」編集部に所属し、小売企業全般を取材。とくに興味がある分野は、EC、ネットスーパー、M&A、決算分析、ペイメント、SDGsなど。趣味は飲酒とSF小説、カメラ

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