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西友の店内にレタス畑が出現!? 「店内栽培」は食品小売の新たな潮流となるか

西友(東京都/リオネル・デスクリー社長兼CEO)は2月26日、埼玉県内の店内に「植物工場」を開設し、そこで水耕栽培したレタスの一種「グリーンリーフ」を売場で販売するという取り組みをスタートさせた。物流にかかる中間コストを省けると同時に、高鮮度の野菜を顧客に提供できるというメリットから、同様の取り組みは米国や欧州の食品小売企業でも相次いで始まっている。西友としてはそれだけでなく、同社が展開する総合スーパー(GMS)業態店舗の新たな収益モデルづくりの一役を担うものとして注目しているようだ。

 45坪のスペースで1日240株を生産

西友上福岡店に設置されたグリーンリーフの植物工場

 東武東上線「上福岡」駅から徒歩数分の場所にある「西友上福岡店」(埼玉県ふじみ野市)。1984年にオープンし地域住民から親しまれてきた、西友の中でも老舗店舗の1つだ。

 そんな同店の3階部分に突如、「植物工場」がお目見えした。ゲームコーナーの一部を改修するかたちで約45坪のスペースを確保し、グリーンリーフの水耕栽培を行うという取り組みだ。ほかの売場からは壁を隔てて完全に遮断されており、常時一定の温度と湿度で管理されている。水耕栽培に欠かせない水道については既存の水道設備をそのまま転用した。売場側の壁の一部には中を見渡せるガラス窓が設けられており、お披露目された226日当日には、窓の向こうに広がる“レタス畑”を不思議そうに眺める来店客の姿も見られた。

収穫されるとすぐに売場に並べられる

 栽培するグリーンリーフは播種(種まき)から30日超で収穫を迎え、1日の生産量は240株。1年中、毎日同じ量が収穫される。また、現段階では45坪のスペースの半分程度を使っての栽培となっているとため、さらなる需要が見込めれば生産能力を拡大させていくこともできるという。収穫作業は午前中に行われ、そのまま店内地下1階の青果売場に運ばれ品出しされる。また、既存の配送ルートをそのまま利用するかたちで近隣店舗(小手指店、西荻窪店、リヴィンオズ大泉店、リヴィン光が丘店)への納品も行う計画だ。

イニシャルコストも抑え、価格は1年中税別137円!

安定した価格と抜群の鮮度がウリだ

 この植物工場のメリットは何といっても高鮮度の商品を提供できることにある。「西友でも地場野菜や産直野菜の売上が好調に推移しているなか、“店内で収穫されたばかりの野菜”という付加価値のある商品を販売できることを喜ばしく思う」と上福岡店の岡山敏尚店長は頬を緩める。

 天候に左右されることなく常に一定数を出荷できるという点も大きい。そのため価格も抑えられ、今回発売したグリーンリーフは年間を通じて税抜137円と手ごろな価格を実現。EDLP(エブリデー・ロープライス)を経営の根幹とする西友にとって、相場の変動が大きい青果で安定した供給システムを築くことは重要な取り組みの1つだろう。加えて、無農薬栽培であるため安全・安心を訴求できるほか、水洗いせずにそのまま食べられるという利便性も打ち出すことができるなど、メリットはさまざまある。

 そうした一方で気になるのはイニシャルコストだ。一般的に植物工場の開設には初期コストが重くのしかかり、それが売価を引き上げるケースが多い。実際、すでに食品スーパーの売場にも植物工場や研究施設で収穫された野菜や果物が並ぶこともあるが、価格は概して割高だ。

 しかし西友は今回の工場開設にあたり、植物工場の研究・コンサルティングを行うプランツラボラトリー(東京都/湯川敦之社長)とタッグを組み、同社が東京大学との共同研究によって開発した植物工場の運営システム「PUTFARM(プットファーム)」をベースとして採用。同システムはスペースの大小にかかわらず設置できるほか、建屋や設備をシンプルなものにすることで従来の植物工場と比べ導入コストが2分の13分の1に抑えられるという。

 植物工場はGMSの新たな収益モデルを生み出す?

西友は植物工場を新たなテナント戦略の軸の1つとして目しているようだ

 店内に植物工場を設置し、そこで収穫した野菜を売場で販売するという取り組みは、世界各国の食品小売業でも近年見られる動きだ。たとえば米国のホールフーズ・マーケット(Whole Foods Market)や、ドイツのエデカ(Edeka)、メトロ(Metro)などで実績がある。国内でも、イオン琉球(沖縄県/佐方圭二社長)の「イオンスタイルライカム店」で葉物野菜の店内栽培にチャレンジしているほか、紀ノ國屋(東京都/堤口貴子社長)もドイツの農業ソリューション企業と提携し、今年夏から店内での農作物栽培に取り組む計画を発表している。

イオンスタイルライカム店での取り組みについてはこちらの記事を参照

 鮮度の高い野菜を安定的に低価格で販売できる“店内栽培”の仕組みは、巨大台風やゲリラ豪雨、猛暑、暖冬といった異常気象の影響を大きく受ける日本の小売業にとっては、まさに1つの光明ともいえるものなのかもしれない。

  そうした流れの中で西友が植物工場を開設するのは自然な流れだが、彼らはもう1つ大きなねらいを持っている。それは、低成長のフェーズから抜け出せていないGMS業態のテコ入れ策としての側面だ。事実、西友のディベロップメントセンター本部不動産部部長の由佐菜穂子氏は、「(植物工場は)GMSを今後どういうふうに展開していくのかを考えたときの、テナント様との新たな協業の1つでもある」と明かす。

 由佐氏が言うとおり、そもそも今回開設した植物工場はテナントの位置づけであり、プランツラボラトリーが西友に賃料を払うというスキームになっている。工場の運営はもちろん、作物の管理や収穫作業などはすべてプランツラボラトリー側が担い、西友は同社が生産した野菜を商品部名義で“仕入れる”かたちをとる。1日に生産される240株のグリーンリーフは基本的に西友が買い切る契約で、需要に応じて生産量をコントロールすることもできないというリスクはある。しかし西友にとしては、端的に言えば「モノが売れないテナント」よりも「モノを生み出すテナント」を入れるというチャレンジが、GMSの新たな収益モデルをつくるうえでどう作用するのかを見極めたいという思惑が透ける。

 西友に限らず、郊外立地のGMSでは物販テナントを誘致する段階から苦戦するケースも散見される。そうしたなかで増えつつあるGMSの中の“休耕地”をどう活用するか――。物販テナントに固執するのではなく、植物工場のような「生産機能」を持ったテナントを積極的に誘致していくというのは、1つの解なのかもしれない。