スポーツ用品販売のアルペン(愛知県/水野敦之 代表取締役社長)が2022年4月1日、東京・新宿にAlpen TOKYO(アルペントーキョー)をオープンする。コロナ禍で最高益を達成し勢いに乗る同社にとって史上最大規模のフラッグシップ店舗である。これまで郊外を中心に展開してきた同社の「新たな挑戦」となる都心本格進出。どんな狙いや戦略で勝負をかけるのか—―。創業50周年イヤーの覚悟と首都圏攻略のシナリオに迫る。
東京都心進出で描くさらなる成長のシナリオ
観光ゾーンとして刷新された歌舞伎町エリアを対面に、新宿駅東口すぐの目貫通りに君臨する巨大な「Alpen TOKYO」。アルペン創業50周年にして史上最大規模となる同店舗は、同社の集大成ともいえる施策が盛り込まれ、旗艦店にふさわしい存在感とコンテンツで買い物客を迎え入れる。
このテナントにはかつて、ヤマダ電機が出店。家電量販店激戦区の新宿東口で圧倒的な存在感を放ち、その勢いを象徴していた。だが、最大の顧客と見込んでいたインバウンド需要がコロナ禍で消失。撤退を余儀なくされる。一等地から明かりが消え、しばらく空室が続いていた。
盛者必衰とはいえ、商品販売を軸にする企業にとって大口顧客の消失は大きなマイナス要因だ。難しい状況はどこも変わらない。出店コストを考えても相当な覚悟が求められる。
「一等地」への出店を決断させた2つの要素
そんな中で名乗りを挙げた同社。決断はさまざまな要素が絡み合ってのものというが、大きな理由は2つに絞られる。
一つは新しいアルペンを打ち出すためには東京都心への進出が必須だったこと。もう一つは、デジタルと融合するリアルの拠点として立地と規模が重要だったことだ。
この2つが合致する場所として、同テナントは理想的だった。戦略企画室長の三浦紀克氏は次のように説明する。「当社がもはやウインタースポーツの会社ではないことを知ってもらうためには、発信力の強い新宿からスポーツ全体の魅力をお伝えしていくことが必要だと感じている。それから店舗に入った時、『サッカーだな』とか『野球だな』というような世界観は売り場が狭いと感覚的に伝えられない。都心部のお店ではなかなか難しいそうしたニーズを満たすためにも、広さは大切な要素だった」
出店に伴う多大なコストと人流の変化は大きな問題ではない。重要なことは、アクセスにすぐれていること、より多くの人が行き交うこと、そしてリアルの良さを最大化するためにより大きなテナントであることだと同社は説明する。
逆にいえば、この2つがクリアできていれば、出店コストはマス広告やマーケティング費用と按分し、同店舗を情報発信やOMO(オンラインとオフラインの融合)の拠点と位置づけることで最適化できる。店舗そのものが強力なコンテンツであり、磨き上げることがそのままミッション達成に近づくことになる。
コロナ禍に首都圏進出を決断した納得の理由
同社がこの場所に収まったのは、昨今の業績と擦り合わせればなんの不思議もない。2022年6月期第2四半期(2021年7月1日~2021年12月31日)の同社決算は売上高1129億円、営業利益59億1500万円、経常利益が68億5500万円、親会社株主に帰属する四半期純利益は43億3300万円と過去最高水準に近い数字をキープしている。
コロナ禍に増大したゴルフ人口を取り込んだことに加え、注力したECも落ち込みをカバーする売上となり、好調を牽引している。
同社を古くから知るユーザーにとっては、そのイメージはウインタースポーツに強いスポーツチェーンであり、出店は郊外中心というものかもしれない。だが、昨今の主流はゴルフや一般スポーツであり、さらにアウトドアやアパレルも展開。むしろ冬スポーツは取扱部門としては数%に過ぎず、縮小傾向にある。
EC分野でもリアルとの融合をテーマに強化を進め、この春にはオンラインフィットネスをスタートするなど、先進的な取り組みも積極的に導入しており、かつてのイメージとは様変わりしている。
こうした「新しいアルペン」を認知させる上でも、東京都心進出は大きな意味がある。三浦氏は「より多くの人が行き交うこの場所に出店することで、アルペンがどんな会社なのか、当社のことをよく知らない若い人にも知ってもらうきっかけになれば」と言い、ブランディング面での波及効果にも期待する。
いまのベストを惜しみなく投入し「新しいアルペン」をアピール
満を持しての東京都心本格進出となる同店舗は、まさに現在のアルペンの集大成といえる。これまでの店舗運営で培った知見や最新のトレンドを惜しみなく投入しながら、入念に創り上げられている。
B2階は野球・ソフトボール売場。スタジアムをイメージした内装で、買う以外の高揚感が刺激される。B1階はテニスバドミントン卓球バレーボールスイミングを取り扱う。ストリングの張り替えなど加工に力を入れているのが特徴的だ。
1階はランニング売場。最も人が行き交うメインフロアであり、同店の目玉の売り場となる。新国立競技場に採用されたトラック素材を使用した売り場は、ランナーの心を揺さぶり、品揃えでも日本最大級を実現し、旗艦店にふさわしいラインナップとなっている。
1階ではバスケットボールコーナーも展開。このエリアにはFIBA認定のフローリング材が採用され、プロ選手が試合を行なっているコートの感触を体感できる。
芝のスタジアムをイメージした2階はサッカー売場。試し履きスペースには各国の有名スタジアムで使用されるレカロ社のシートが設置され、さながらスタープレイヤーの気分で試着ができる。2階は他にメンズアパレルも扱い、ナイキやアディダスなどの主要ブランドがラインナップされている。
3階はフィットネス、レディースアパレル、キッズアパレルを展開。4階ではキャンプ用品、5階はキャンプブレンドコーナーが展開されている。
6階はゴルフアパレル、ゴルフシューズ、そして7階はゴルフクラブの売場となっている。7階には4種類8打席の試打席があり、最新機器を活用しながら納得のクラブ選びが可能だ。
リアル店舗のメリットを最大化し「スポーツをもっと身近に」
全てのジャンルで都内最大級の品揃えを実現しているだけでなく、リアル店舗ならではの仕掛けが随所に施されおり、五感全体で満足できるようになっている。
さらに各ジャンルには、サッカーやテニスなどの競技に精通したスタッフや元プロ野球選手も配属され、本物のアドバイスを受けながらショッピングができることも大きな特徴だ。限定商品やイベントも定期的に開催される予定で、同店はスポーツ愛好家のみならず、ふらりと立ち寄るだけでもスポーツの楽しさや奥深さを存分に体感できる空間となっている。
進化の象徴として次世代の小売のスタイルを追求
祖業のウィンタースポーツ用品からスタートし、郊外を中心に出店。成長を遂げてきた同社。「Alpen TOKYO」は、半世紀の歴史を経て進化を遂げた同社の現在地を象徴する拠点であり、さらなる飛躍へのシンボルとなる。
2022年7月8日に創業50年を迎えるにあたり、改めて会社のパーパス(存在意義)を「スポーツをもっと身近に」に設定した同社。まさにパーパスを具現化する同店は、スポーツチェーンとしての同社の未来にとどまらず、次世代の小売業のスタイルの追求という観点からも注目のコンテンツといえそうだ。