ダイヤモンド・リテイルメディア・カンファレンス開催レポート Amazon大競争時代の流通業成長戦略ビジョン AI×IoT×クラウドの進化で加速するデジタルトランスフォーメーション

2018/02/28 15:51
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【基調講演】テクノロジーと消費者の進化が変えるリテールの未来~リテール領域におけるAI・ロボット活用の最前線~

株式会社ローランド・ベルガー
プリンシパル 福田 稔 氏
ITの進化はこの10年で大幅にスピードアップしている。10年前には主流だった携帯電話はいまやスマホに取って代わられ、パソコンからのアクセスが普通だったネットショッピングは現在ではスマホを使ってどこにいても利用できる。さらにSNSの普及や利便性を増したネットショッピングの台頭など、デジタル化が流通ビジネスにも非常に大きな影響を及ぼしている。そして市場の変化を敏感にキャッチし、いち早く適切に対応するためにデータの利活用が求められる。こうした動きが今後10年でさらに発展することは確実だ。より多くのデータを集め、分析できる力が不可欠になっている。

 

所得と年齢の2軸から複雑化する消費者クラスター

 

株式会社ローランド・ベルガー
プリンシパル 福田 稔 氏

次の10年で消費社会がどのように変化するか、それは消費者の変化とテクノロジーの進化の両面から見ていく必要がある。今後10年を展望するうえで重要になるのが、「価値観の多様化」であり「生活のデジタル化」である。さらに「人口動態の変化」と「シェアエコノミーの浸透」も着目すべき変化だ。

 

 「価値観の多様化」については、日本市場固有のマスマーケットを構成するクラスターの中で、フォロワー層が消滅していくという点を指摘しておく。2000年頃までは、日本市場では消費者クラスターをとらえるのに大きく分けて「所得」と「年齢」の2軸で見ていれば十分にターゲティングができた。それ以降、「価値観」という軸が出現し、これをベースにターゲットを細分化するようになってきたのが現在までの変化と言える。

 

 消費者クラスターとして「消費志向層」「伝統重視・保守層」「自由・個性追求層」「人間・家族重視層」「倹約志向層」などがあり、そして大きなウエートを占めるクラスターとして団塊世代ジュニアと団塊世代で占める日本市場固有の「フォロワー層」が存在する。

 

 「フォロワー層」の特徴は価値観が希薄で世の中の動きに流されやすい。そうした面からも日本の消費財メーカーはマスマーケットを構成する「フォロワー層」に頼ってきたと言えるだろう。

 

「価値観の多様化」や「生活のデジタル化」がEC化を牽引

 最近になってさまざまな社会環境の変化により、価値観が多様化し、「フォロワー層」がそれ以外のセグメントに分割・吸収されようとしている。そして8つのセグメントで分類することができるようになる。

 

 それは「自由・個性追求層」「消費志向層」「伝統重視・保守層」「人間・家族重視層」「倹約志向層」に、環境問題や社会問題に関心が高い「社会・倫理志向層」、技術革新やデジタル・ITに関心が高い「先進・革新志向層」、人生を力まずに楽しむことを重視する「快楽主義層」の3つを加えたクラスタリングだ。われわれは過去20年間の調査で、世界各国でこの8つのクラスターが存在することを把握しており、日本市場もグローバルと同様の構成へと変化していくと想定される。

図1●生活のデジタル化入力インターフェースの進化により、デジタルを活用した購買行動が当たり前の世界へと変わっていく

 

 こうした「価値観の多様化」は、結果として「モノからコトへ」とお金の使い道が変わっていくことにつながる。実際に過去と現在を比較すると対サービス支出、つまりコトへの支出のウエートは大幅に増えている。

 

 一方、「生活のデジタル化」で予想されるのは、20~30代のいわゆるデジタルネイティブの年齢層が今後消費市場の中心になるということだ。インターネット利用率の高い世代が消費の主体となることに加えて、さまざまなイノベーションにより急速なEC化が予想される。EC化が進む要因の1つにはユーザー接点の拡大があり、コミュニケーションのあり方の進化やユーザーエクスペリエンス(購買体験)の革新などが挙げられる。

 

欧米中心にAI・ロボット技術を活用した先進事例が登場

図2●日本のリテールにおけるテクノロジーのパイプサイクル

 そうした技術革新の一例が、自宅で活用するAI・ロボットの技術革新による日常におけるデジタル化の推進だ。ビジネスでのAI・ロボットの活用というと在庫管理や接客だったが、ロボットが家庭で使用されるようになり、それは各社が提供を開始した消費者とのコミュニケーションロボットであり、これが今後、EC化率の向上の一助となるだろう。

 

 過去にはパソコンのようにキーボードやマウスが入力インターフェースの時代があったが、さらにスマホやタブレットのようにタッチパネルが入力インターフェースとなったことで利便性が大幅に向上した。それが「Amazon Echo(アマゾンエコー)」などのように画面の操作もせずに声のインターフェース「Amazon Alexa」を採用し、言語解析機能が向上することで認識力が高まりネット人口のさらなる拡大につながる。

 

 こうした技術革新を背景に、ここ数年でロボット市場は生産、サービス、個人生活のあらゆる分野で拡大し、グローバルで2015年に19億ドルだったものが2020年には30億ドル、2025年には52億ドルに成長すると予想されている。流通小売分野でも、商品・在庫管理から店頭での対人サービス、会計処理や宅配などオペレーションの自動化、レコメンデーションやAR(拡張現実)・VR(仮想現実)など新たなカスタマージャーニーの創出にAIやロボットの技術が導入され始めた。

期待値先行から先端技術定着で本格的な普及へ

 すでに先進的な事例がワールドワイドに展開されている。ドイツのMetraLabsはRFIDを活用して高精度の商品管理が可能なロボット「Tory」を開発し小売店への導入を進めている。また、対人サービス向けロボットでは日本の「Pepper」のほかにもフランスの「Tiki」、米国の「OSHbot」などが製品やサービスのオリエンテーション、顧客の案内や店舗スタッフによる在庫スキャンなどに活用されている。

 

 また、米国シリコンバレーのHointerはアパレル、ジーンズショップでのRFIDを使った在庫管理システムにより買物をシンプルにし、またQRコードとスマホアプリ、自動化技術を連携させて試着からクレジットカードによる支払い、自宅への商品配送まで自動で行うシステムを稼働させている。

 

 同じようにスペインのZARAでは試着室での商品の交換依頼に対して、店舗スタッフが介在することなく自動的に商品を届けるスマート試着室を開発した。これにより来店客の試着商品数が約3倍になり、客単価は1.5-1.8倍に向上したという。

 

 オペレーションの自動化は物流でも起きており、英国のStarship Technologiesは自動宅配ロボットを使い、すでに欧州の5都市で130万人を対象に実証実験を行っている。宅配の自動化では、1回あたりの宅配コストを、人が運ぶ場合の10分の1以下の約130円に圧縮できるという。

 

 さらに中国では無人のコンビニBing Boxがすでに100店舗以上展開されている。買物客は入退店をWeChatの機能を利用したスキャニングにより行い、購入する商品をスキャニングしてAlipayやWeChat Payを使って決済を行う。無人店舗だが、RFIDとセキュリティシステムによる防犯機能やトラブル時にはリモート通話で運営スタッフに連絡もできるようになっている。

 

 ただ、こうしたAIやロボット技術の利用について、現在は期待値が先行している段階と言えるだろう。今後、技術の最適な活用についての検討や周辺技術の充実により本格的な普及が始まると考えている。

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