ダイヤモンド・リテイルメディア・フォーラム2017開催レポート
IoT・AIで進化する小売業の成長戦略ビジョン
パーソナライゼーションで「顧客体験価値」向上を実現
【基調講演】
「ボーダーレス化する」流通業界
~業態・産業の際がなくなる~
株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア
編集局 局長
千田 直哉
合従連衡、寡占化が進む!
いま、流通業界は、旧来からの業態区分が意味をなさない時代に突入している。
日本の小売業の年間商品販売額は、122兆円(2015年商業統計確報<経済産業省>)。それらを構成する各業態を見ていくと、「広域化・総合化・巨大化」が合従連衡というかたちで急速に進んでいる。業態内におけるボーダーレス化である。実際、業態別に市場占有率を見ていくと、百貨店は上位5グループで63.4%を占め、総合スーパーは上位2グループで54.3%、コンビニエンスストアは上位3社で90.4%、ドラッグストアは上位10社で68.6%、ホームセンターは上位5社で43.4%、食品スーパーは10社で37.0%。業態内での寡占化、上位集中化が進んでいることがわかる。米国では、ドラッグストアやホームセンター、ディスカウントストアなどほぼ上位2社寡占という状態になっており、欧州も似たような状況。日本の小売市場でもさらなる再編が起こり、さらにプレイヤーが絞られたとしても不思議ではない。
日本の小売市場に起こっている2つめのボーダーレス化は「食品侵食」だ。衣料品や住居用品は季節商品であり、需要が不安定なうえに、競合も強力で参入しにくい。その点、食品は安定的な需要があり、回転が速いため、お客の来店頻度もあがる。参入の魅力があるのだ。その象徴というべき企業がドラッグストアのコスモス薬品だ。2017年5月期の業績は売上高5027億円であり、26期連続増収を達成。食品売上高は2797億円。売上高に占める食品の比率は実に55.6%である。これを日本の食品スーパー(SM)売上ランキングにあてはめると第9位となる。
アマゾンとどう関係するのか?
Eコマース(EC)は、ボーダーレス化そのものを意味する。業態の壁はもちろん国家の壁もいとも簡単に乗り越えてしまうからだ。
その代表選手はアマゾン・ドット・コム(以下、アマゾン)である。「エブリシング ストア」を標榜し、“無限棚”では「衣」「食」「住」「遊」「休」「知」「美」のすべてを取り扱い、現在の取扱商品は約3億SKUといわれている。
最新のビッグニュースは、アマゾンによる米国の優良SM、ホールフーズの買収である。これが認可されれば、アマゾンは、食品リアル店舗網だけでなく、生鮮食品のラストワンマイルの物流拠点も手に入れたことになる。
ほかにも、リアル書店や注文から最短15分で積み込み可能なピックアップストア、レジなし店舗の「アマゾンGO」など、さまざまなタイプのリアル店舗も展開しており、ネットとリアルの融合は日進月歩である。
独自のデジタルデバイスの開発も注目で、電子書籍リーダーのキンドルやメーカーとタイアップするダッシュボタン、AIアレクサを搭載したスピーカーのアマゾンエコーなど利便性の追求に徹している。アマゾンは地球一の品揃え、地球一の低価格、地球一の物流網、国家以上の情報収集力&ネットワーク、動画配信サービス、その他クラウドなど、「アマゾンの前にアマゾンなし」というような「断絶の産業」を創造しようとしている。
そして、いまだに完成形が見えないこの驚異的な企業といかに関係していくのかが、全流通業者にとっての今後の大問題といえるだろう。