ダイヤモンド リテール・カンファレンス2015
顧客ロイヤルティを創造するアナリティクス経営
進化する小売業のID-POS、顧客データ分析・活用戦略

2016/01/27 17:16

【講演】
生活協同組合連合会 コープネット事業連合 店舗営業部 システム企画次長  斉藤 繁 氏

 

ID-POSデータ分析・活用の成果と品揃え改善に向けた挑戦

データに振り回されない地道で効果的な分析を

 

 ビッグデータを分析・活用すれば全ての課題が解決するというのは迷信に近い。しかもビッグデータを活用するには費用も時間も労力も必要だ。何を目的に分析するかを見定めることは重要であり、そうなると必ずしも多くのデータを必要としない場合もある。コープネット事業連合では、品揃え改善を目的にID-POSを起点としたデータ活用を行っている。データを効果的に活用するには、まず単一の目的で効果を検証することの重要性を示唆している。そこからコープネット事業連合では次の段階への進化を狙っている。

バイヤーは情報のほとんどをサプライヤーに依存している
生活協同組合連合会
コープネット事業連合
店舗営業部 システム企画次長
斉藤 繁 氏

 コープネット事業連合は業績回復に向けて、例えば経費削減から売り上げ拡大への方針転換や、安価でスピーディなWeb広告の導入、新規出店を控えた店舗改装の推進、運営方法の店舗オペレーション起点への切り替えなどの改革を進めている。その一環として、ID-POSなどのデータ分析を品揃え改善に取り入れている。

 

 ID-POSについては、上手く活用できている流通業が少ないように感じている。その理由は2つあると考えている。ひとつ目は、一般的な品揃え決定プロセスの中で、情報のほとんど全てをサプライヤーに頼っているという実態がある。これは決して悪いことではなく、バイヤーはサプライヤーと密接な関係を保つことで業務を効率化できる面もある。バイヤーはサプライヤーと協働で品揃えを作っているが、そこに営業企画がデータ分析ツールを持ち込んでも、バイヤーはサプライヤーとの関係を崩したくないので拒絶するというケースが多くないだろうか。

 

 コープネット事業連合の場合、営業企画がID-POSデータの分析も行うが、商品部長が私の1年先輩で同じ時にバイヤーを経験しており機微がわかるので、商品部長から営業企画の方針に従うように指示されている。つまり指揮系統と優先順位が明確なのでID-POSの導入活用がスムーズに進んでいるわけだ。

POSでもかなりの分析は可能。ID-POSの居場所は?

 POSは「いつ」「どこの店で」「何をいくつ」「いくらで」買ったかのデータ。これを分析すれば、ロスの減少が進むとともに仕入れ総量がわかることで納入価格が下がり利益率が向上する。さらに最大利益を実現できる売価がわかり利益の絶対額が上昇する。多く売れている価格帯がわかり品揃えすべき価格帯商品を厚くできる。同日に購買されている商品の分析もできることで関連陳列の効果を高められる。

 

 つまりかなりの分析がPOSデータでできる。分析の目的は損益を改善することにあるので、POSだけでもかなりの効果を挙げることが可能になる。

 

 そこにID-POSを導入し「だれが」という情報が入ってくる。それにより商品Aを買った人が再度購入するかどうかのリピート率がわかる。しかしそれがわかって売場を改善できるかどうか。新規もリピートも購買に変わりはない。

 

 また、Bさんが過去一年で買った全ての商品がわかり、顧客の嗜好を反映できるが、これをマス化してしまうと結局はPOSと同じになっていく。年齢性別など細かい属性データがわかると言っても、スーパーの場合、属性で変えられる部分は限られている。

 

 顧客別に購入頻度と金額推移がわかり優良顧客のランクアップ、ランクダウンがわかるが、スーパーの売場は優良顧客だけに合わせられないといった現場の事情がある。うまく使えば分析効果が高まるのは誰にでもわかるが、実際に展開するとなるとプラスαで便利になるよりもデータ数が増えてPOSで簡単にできた分析も難しいというのがふたつ目の理由だ。

 

 しかもID-POSのシステム投資と運用の人件費がかかり、私が「飛び道具」と呼ぶクーポンを発行しても、その売上だけでシステム投資を回収するのは非常に難しい。ならば売上アップで回収しようというのが発想の転換だった。

 

クーポンで回収よりも売上アップで回収に転換

 クーポンを否定するわけではなく、確かにクーポンには効果がある。仮にシステム投資と運用経費に6000万円かかったとして、コープネットの場合ならば年間24万枚、週4.6万枚発行すれば回収できるめどがつく。この程度ならば問題なく実行できるだろう。しかしこれだけならばIDPOSでなくてもセールをすれば済むという見方もできる。

 

 ならば単純に売上を増やすために品揃え改善に生かした方が簡単だろう。クーポンやDMで回収するよりも、こちらの方がハードルは低い。仮に粗利率を25%として売上を2億4000万円増やせばシステム投資が回収できる。ならばデータ分析から同時購買や代替商品などを把握し品揃えを改善した方がはるかに簡単である。

常識を破るケースもあるが数字の過信は禁物

 ID-POSのデータから様々なことがわかってきた。今までの常識を打ち破るような分析結果も出てきたが、実績データに基づき検証を進めているところだ。

 

 購買分析や顧客分析が流通業界で流行りで、データを分析・活用すれば売上アップに直結するようなイメージが先行している。

 

 今回、コープネット事業連合でのIDPOSを活用した品揃え改革について話したが、私が常々社内で言っているのは「数字で遊ばない・数字に遊ばれない」ということ。

 

 数字をこねくり回すのは確かに楽しいし、数値化されたデータをみれば、誰でもそれが正しいという判断に陥りがちだ。確かに新しい気づきもあるが、出てきた数字が本当に大きな効果につながる数字なのか考えてみる必要がある。

 

 様々な切り口から数字を抽出しても、結局数字に振り回されて仮説を間違えたり誤った判断を下したりする危険をはらんでいると自覚しなければならない。

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